売れない、アイデアが出ない、人が付いてこない。落ち込むことは誰にでもある。問題はそこからどう回復するか。一流ホテルの社長、トップセールスマン、学校改革の旗手など、第一線で活躍する人たちが自分だけの秘法を明かしてくれた。
大和ハウス工業 
流山集合住宅営業所所長 
宮崎武志

つくばエクスプレスと東武野田線が交差する「流山おおたかの森」。真新しい駅舎のまわりに、区画整理された住宅地が広がっている。大和ハウス工業でアパート営業を手がける宮崎武志さんの戦場はここである。

顧客の大半は近隣に土地を持つ農家などの資産家だ。いますぐには商売に結びつかなくても、営業マンは先々を見据えて地道な訪問活動を繰り返す。そのうえで「近くに駅ができるとか、代替わりして地主さんの考え方が変わるとか、話を聞いていただけそうなときにベストの土地活用プランを提案するのです」(宮崎さん)という。

この地区では大和ハウスは後発組。市場開拓に本腰を入れたのは、06年に出張所(2年後に営業所)を設けてから。初代所長が宮崎さんだ。

「それまで名古屋で8年、柏でも2年ほど集合住宅の営業を経験しました。それなりの成績はあげたと思います。流山に来てみると、うちの実績はトップメーカーに比べて5分の1か6分の1しかありません。そこで『よし、3年でトップに並んで、そのあと逆転してやるぞ』と意気込んでいました」

だが、アパート営業で成果を出すには年単位の時間がかかる。最初は種まきから入るのが常道だ。にもかかわらず、早めに実績をあげたいという焦りから「小手先の動きをしてしまった」と宮崎さんは悔やむ。

「たとえば名古屋では、担当が長かったので既存のお客様をベースに売り上げを伸ばしていけました。この地区ではそれがほとんどできません。じっくりと人間関係をつくるところから入らなければいけないのですが、飛び込みで営業に行き、いきなりアパートの建設プランを提示するようなことをやってしまったのです」

むろん、それでは成果は出ない。どうしたらいいか。思い悩んだ宮崎さんの胸にふと浮かんだのが、大和ハウスの樋口武男会長が繰り返し口にする「凡事徹底」ということだ。

「よく耳にしていましたし、意味も当然わかっていました。しかし、身に染みていたとはいえません。そのときにはじめて『この仕事は地味な活動の積み重ねが大切だ』と実感できました」

基本に立ち返り、拙速なプラン提示を封印した。いま、宮崎さんが率いる流山集合住宅営業所は、先行したライバルと地域首位の座を争っている。

(永井 浩、浮田輝雄、宇佐見利明=撮影)
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