売れない、アイデアが出ない、人が付いてこない。落ち込むことは誰にでもある。問題はそこからどう回復するか。一流ホテルの社長、トップセールスマン、学校改革の旗手など、第一線で活躍する人たちが自分だけの秘法を明かしてくれた。

離婚、子供の病気が続いたときに

第一線で活躍する人たちは、ときに訪れる仕事や心身の不調にあたり、ある行動をとるとか、考え方を改めることで反転のきっかけをつかんでいる。だが、それでも結果が出なかったとしたらどうだろう。

最後に紹介するのは、草月流のいけばな作家・州村衛香さんのエピソードだ。

州村さんは30年ほど前に2人の娘を連れて離婚した。すぐにでも収入の道が必要だったが、探しても条件のいい仕事は見つからなかった。ただ、さいわいなことに草月流師範の資格を持っていた。「内向的な性格なので人に教える仕事ができるとは思わなかった」というが、ほかに選択肢はない。人に誘われるまま、カルチャースクールの講師として働き始めた。

そんな折、喘息をこじらせた次女が1カ月も入院するという大事件が起きた。しかも入院中、3度も生死の境をさまようという重症だった。

「あのとき強く念じたのは『子供の命だけは取らないでほしい』ということでした。命さえあれば、お金なんていつか必ず巡ってきます。『お金がないし子供は入院、もうダメだ……』ではなく、『命が助かってよかったな』と思うことができました。子供はすぐに大きくなります。その過程で親としてきちんと向き合わなければいけません。今回はそういう時期をもらえたんだな、と感謝する気持ちにもなりましたね」

そう思えれば心に波風は立たない。平静な気持ちで戦いの現場へ出ていくことができるのだ。

むろん生け花の世界を戦場にたとえるのは適切とはいえない。しかし、離婚したての女性が直面したのは「5クラス13人を教えて月収4万円」という厳しい現実だ。そこから州村さんの戦いが始まった。「私は才能がないから人の10倍努力しよう」と、実技や専門書の書写に打ち込み、自分が生徒だったらどんな先生に習いたいかをイメージして教え方を工夫した。