覚悟のうえでラシャメンになった
蝶々さんは本当の妻になったと思っていたが、3年後に帰国したピンカートンがアメリカ人の妻を連れていたため、名誉が失われて自死する、という内容である。だが、原作の戯曲には、「お金持ちの人に望まれるなら、しばらく(3カ月ほど)『結婚』してもいいと思ったのです」という蝶々さんの言葉がある。
つまり蝶々さんは、本当は覚悟のうえでラシャメンになったのだが、オペラでは結婚したはずなのに裏切られたという話に美化された。同様に、トキのモデルのセツも、覚悟のうえでハーンのラシャメンになったはずだが、「ばけばけ」では、ハーンは彼女をただの女中のつもりで雇ったという話に美化された。
実際、セツは「ラシャメン」と呼ばれるのがつらかったそうだが、たとえ差別されようとも「ラシャメン」になれるものならなりたい、というのが没落士族の娘の本音だった。「ラシャメン」になれた娘はかなりマシだったというのが、この時代、生活の糧を失った士族の娘の現実だったのである。
(初公開日:2025年11月25日)

