ショッピングモールは“監獄のデザイン”が受け継がれている

例えば、長崎市で男児が男子中学生に連れ去られ殺害された事件(2003年)でも、買い物客でにぎわう家電量販店、つまり、「不特定多数の人が集まる場所」が誘拐現場となった。この事件では、「当時、店内は会社帰りのサラリーマンや中高生でにぎわっていたというが、有力な目撃情報は寄せられていない」と報じられている。このように、不特定多数の人が集まる場所は、「入りやすく見えにくい場所」なのである。

海外では、犯罪機会論の視点から、「不特定多数の人が集まる場所」のように「心理的に見えにくい場所」であっても、できるだけ「物理的に見えやすい場所」にしようと工夫してきた。

例えば、現代のショッピングモールは、昔の監獄のデザインが受け継がれている。次の写真は、カナダのショッピングモールだが、このデザインを監獄のデザインと比べていただきたい。

カナダのショッピングモール
筆者撮影
カナダのショッピングモール

監獄のデザインとして紹介するのは、オーストラリアの旧メルボルン監獄だ。ここは現在、歴史的建造物として一般公開されている。

旧メルボルン監
旧メルボルン監獄 出典=『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館)

行政や企業が担うべき課題

この建築様式は、イギリスの哲学者ジェレミー・ベンサムが考案したもので、「パノプティコン」と呼ばれている。それは、古代ギリシャ語の「パン(すべて)」と「オプティコン(観察)」の合成語だ。囚人は実際には見られていなくても、看守の視線を気にせざるを得ないので、「一望監視施設」とも呼ばれている。

ショッピングモールのデザインも、同じように犯罪機会論の発想から、「どこからか誰かから見られている状況」を作り出している。

こうした取り組みは、本来は行政や企業が担うべき課題だが、彼らが犯罪機会論の重要性に気づくまで、犯罪は待ってはくれない。それまでは、日本人の一人ひとりが、犯罪機会論を学び、「入りやすく見えにくい場所」に注意するしかない。

例えば、ショッピングモールのトイレを利用する際、次のような特徴が見られるのなら警戒レベルを上げていただきたい。