“設計”で犯罪の機会を奪った「韓国のトイレ」
なお、スーパーには監視カメラが設置されていたが、犯人には抑止力とはならなかった。というのは、監視カメラが怖いのは、犯行が発覚するかもしれないとビクビクしている犯罪者だけだからだ。この事件の犯人は、監視カメラがある店で、4時間、堂々と女児を物色し続けた。この事実から、犯人は、犯行が発覚しないと思っていたことが推測される。つまり、子供を最後までだまし通せる自信があったのだ。
監視カメラに自分の顔が捉えられたとしても、犯行が発覚しない以上、録画映像が見られることもない――そう犯人は思っていたに違いない。ところが、トイレまで子供を捜しに来るという想定外の展開があり、慌てふためいて殺人に至ったのだ。
対照的に、犯罪機会論が十分に活用されている海外では、トイレの設計そのものが、犯罪の機会を奪うよう工夫されている。言い換えれば、レイアウト的に「入りにくく見えやすい場所」になっているのだ。
例えば、次の写真はゾーニング、つまりスペースによる「すみ分け」が確保された韓国のトイレである。ゾーニングは「入りにくい場所」を作る基本だ。
「だれでもトイレ」は男女別にする必要がある
このトイレには、左手前から男性用、女性用、右手前から男性身体障害者用、女性身体障害者用、と四つのゾーンがある。このように、利用者の特性に配慮したゾーニングが施されているトイレは、犯罪者が紛れ込みにくい「入りにくい場所」だ。
しかも、女性のトイレは、熊本の事件現場とは逆で、奥まったところに配置されている。つまり、「入りにくい場所」になっているのだ。女性用トイレが奥側にあると、女性が男性の犯罪者に尾行されても、トイレに入る前に「おかしい」と気づくことができる。周囲の第三者も、「なぜあの男は奥側に行くのか」と異変を感じ取ることができるので、犯罪者は尾行しにくい。
こうした配慮に基づき設計されているのが海外のトイレだ。その結果、犯罪機会論を採用していない日本のトイレとは、デザインが大きく異なることになった。
次の図表1は、日本と海外の公共トイレのよくあるパターンを比較したものだ。
日本のトイレは通常、三つのゾーンにしか分かれていない。男女専用以外のゾーンには「だれでもトイレ」などという名が付けられ、身体障害者用トイレは男女別になっていない。つまり、「入りやすい場所」だ。ゾーニングの発想が乏しいのは、「何事もみんなで」という精神論が根強いからかもしれない。

