最悪の“トリプル安”が起きる恐れも
有権者の支持を得るために、財政支出を減らすことは容易ではない。円安で物価がさらに上昇し消費者マインドが悪化すると、高市政権はさらに補正予算を組み、追加の経済対策を打つ可能性がある。そうなると財政悪化は一段と深刻化し、最終的に財政破綻のリスクも上昇する。
そうした展開を警戒する大手投資家は増えている。11月17日の週、円売り・株売り・債券売りのトリプル安が進んだ。11月20日、円安が進んだ局面で、国債増発への警戒感が高まったことなどを背景に、新発10年国債の流通利回りは1.80%を突破した。それは悪い金利上昇だ。21日は米国株の下落の影響もあり、日本株が下落した。
今後も高市政権が緩和的金融政策、財源なき財政拡張路線を重視すると、円、日本国債、日本株が同時に下落する恐れが高まるかもしれない。それは、いわゆる「日本売り」だ。わが国の経済・金融市場の不安定感が急上昇するリスクは高まっている。
世界の投資家からの警告は無視できない
2022年9月、英国ではトラスショックが起きた。トラス首相(当時)は財源を確保しないまま財政支出を急拡大して経済対策を発動しようとした。当時、英国でもインフレが進行していたが、トラス首相は財政支出を増やして消費者を支援しようとした。
政策の矛盾を突いた投資家は、ロンドン市場で英ポンド、ギルト(英国債)、英国株を一斉に投げ売ったのである。その結果、英国の年金基金は損失を抱え、社会心理も悪化した。トラス首相は市場、そして国民の信認を失い44日で辞任した。トリプル安に直撃されたにもかかわらず、英国では増税などによる財政立て直し議論が難航している。
高市首相は冷静にわが国の実情を理解し、物価抑制のための金融政策正常化の必要性、医療負担の見直しをはじめ「中負担・中福祉」と呼ばれるわが国の社会保障関係費の見直し、それによる財政健全化を明確に示すべきだ。それに加えて、人工知能(AI)関連分野の成長加速というように的を絞った成長戦略を実行すればよい。
高市政権が迅速に、経済政策の矛盾をただし、理論的に信頼感の高い政策を実行できるか否かが問われている。11月後半の円安、債券安、株安は、世界の投資家からわが国に対する警告だ。

