名づけて「シャドー・プレゼンテーション」
――4本もの発表、お疲れさまでした。準備も大変だったでしょう?
前野「いろんなやり方の人がいるんですけど、自分は発表用のスライドを自分でつくり、原稿も一字一句ほぼ丸暗記の状態にまで準備しておいて、あとはアドリブのように話すというスタイルです」
――そういえば博士は、プレゼンのときに、手にメモを持っていませんね。頭の中にぜんぶ入れるんですか?
前野「はい、入れます」
――記憶力は、子どもの頃から強かったほうなんですか?
前野「いや、弱いです(キッパリ)」
――ええ? じゃあ、どうするんですか。しかも今回は英語ですよね。
前野「ええ、今回は初めての英語の口頭発表で、しかも4つもあったので……へ、へ、へっへっへ(笑)……」
――え? は、博士? 博士っ!
前野「へへへ……き、きつかったです……(笑)」
――おかえりなさい博士。今、そうかもしれませんけど、頭の中が真っ白になっちゃうことはありませんでしたか?
前野「いちばん最初のホイットマン教授との共同研究発表で1回かんでしまって、慌てふためいたりしたんですけども、自分に機会を与えてくれた教授に恥をかかせるわけにはいかないと、頑張りました。2週間ほど前から自分をビデオに撮って、喋り方を確認してましたし、ICレコーダーに発表を吹きこんで、研究活動しているとき以外、たとえば、夕方、研究所の周辺をジョギング中に聴いて、それをひたすら頭に入れていました」
――モーリタニアでたった1人、自らをビデオに撮って見る。自分のスピーチをICレコーダーに撮って繰り返し聴く。まさに砂漠の特訓。これは今回初めて開発した「ひと工夫」なんですか?
前野「いや、これは日本にいたときからやってました。自分の場合は訛っているというハンデがあるので、撮って、聴いて、ひどい訛りのところは気をつけて直してみたり。意識しないと、ことばが硬くなってしまうんです。皆さんが聴いて自然にすっと受け取ってもらえるように喋るようにはするんですけど、結局訛ってしまって、はっはっは(笑)」
――そういうトレーニングは、いつごろ始めたんですか? 弘前大学時代ですか?
前野「つくば時代ですね。つくばの独立行政法人農業生物資源研究所で研究をしていた23歳くらいの頃から」
――誰かに教わった?
前野「まず、発表は何回も自分で練習するものだということは、研究者にとって基本中の基本なんです」
――研究者の皆さん、そうやって発表の練習をしているんですか?
前野「まず、練習は間違いなくやってます。学会に先輩たちと行くと、夜、いくら呑んで帰ってきても、隣の部屋から、明日発表を控えている先輩が発表の練習をしている声が聞こえてくるんです。先輩がそういうことをしていると知っているので、自分もやらないと絶対駄目だと。鏡を見ながら発表の練習してます。自分はこれをシャドー・プレゼンテーションと呼んでいるんですけど(笑)」