老舗にも同じ悩みが
結局、業績回復には7~8年の時間がかかったというが、その間の99年には社長に昇格し、名実ともにホテル経営の全責任を負うことになった。逆境の中の船出である。
のんびりした口調とは裏腹に、中内さんはこの時期、ホテル経営者として何をすべきか、モデルを求めてもがき続けた。ホテル再建王と呼ばれる人の著書を読み込んだほか、自分を見つめなおすため少々過酷な研修にも出かけていった。
そのうちに、一流の業界人の考え方を知りたくなったという。
「97年、当時日の出の勢いだったホテルニューオータニ大阪の甲田浩・総支配人を訪ねました。聞きたかったのは『総支配人にとって大切なことは何ですか?』。大学(コーネル)の先輩でもありますし、ずうずうしく正面から訊いてみたのです。
すると甲田さんは『従業員の顔をお客様のほうへ向けることですよ』と快く教えてくれました。うちのようなオーナー系では、ややもすると従業員がお客様ではなくトップのほうを向いてしまいがちですが、それではサービス業として失格です。同じような悩みを伝統あるニューオータニでも感じておられるのかと思うと、なんだか気が楽になりましたね」
まっすぐに問いをぶつければ、ライバルも胸襟を開いて正直な話をしてくれる。その1歩を踏み出すことが、悩みを晴らすきっかけになるのである。
(永井 浩、浮田輝雄、宇佐見利明=撮影)