結果を出し続ける人にはどのような特徴があるか。元レスリング日本王者でビジネスコンサルタントの金久保武大さんは「失敗を恐れて現状維持をしようとする人に成長の機会は訪れない。成功する人は環境の変化や周囲の批判を顧みないで絶えず行動している」という――。(第1回)

※本稿は、金久保武大『圧倒的な結果を出す思考の筋トレ』(小学館)の一部を再編集したものです。

都市の屋外の階段を駆け上がっている人々
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成長できない人がやっている目標設定

僕はコーチングやメンタリングを受けるのが好きで、これまでに精神科医やさまざまな分野のメンターについてもらってきた。そのなかで、ある精神科医の先生から聞いて、強烈に印象に残ったものがある。

これは、うつ病の診断や評価に用いられるさまざまな方法のうちの一つで、患者の思考のクセとして、「死人のゴール設定」というものがあるというのだ。

正式には「死人テスト(Dead-man test)」と呼ばれ、行動分析学の創始者B・F・スキナーの弟子、オージャン・リンズレーによって提唱された概念「死人にもできることは、目標として適切ではない」――という考え方に基づいている。

つまり、極端に言えば“死んでしまえば一番早く達成できる”という性質の目標のこと。

たとえば典型的な「死人のゴール設定」は、次の通りだ。

・ミスをしないように気をつける
・人に嫌われたくないから、目立たないようにする
・負けたくないから、リスクを取らずに守りに徹する

一見、前向きなようにも見えるが、これらはすべて「何もしない」という方向に力が働く目標だ。

現状維持を目的とする目標は、行動そのものを止めてしまう。そして行動しなければ、成長も成果も得られない。結果として、挑戦は始まらず、停滞するだけで終わってしまう。

僕自身も、人に嫌われたくないし、失敗だってしたくない。そんな感情は誰しも持っているものだと思う。でも、そこに飲み込まれたままでは、何も変わらないし、何もつかめない。大切なのは、その感情を否定することではなく、上手に付き合うことだ。

不安でもいいから前に進む

感情や不安を“ゼロにする”ことは不可能だ。だからこそ、「動けない理由」を冷静に見つめ直し、自分のなかに潜む“無意識のブレーキ”に気づいてあげる。それだけで、次の一歩を踏み出せるようになる。

言い訳をしたくなる気持ちもわかる。でも、それが自分自身の成長を止めているのかもしれないと疑ってみること。たったそれだけで、行動に向かう道が開けてくる。

どんな成功者も、例外なく動き続けている。止まっていて成功したという例は、聞いたことがない。だからこそ、完璧なマインドセットを目指す必要はない。大切なのは、どんな感情も“持ったまま”で、前に進むことなのだ。

僕が現役時代に「死人のゴール設定」に、陥ってしまった話をしよう。

レスリング時代のある大一番、「絶対に負けたくない」という気持ちが強すぎて、攻めるべき場面で思考と動きが止まり、結果として相手に主導権を渡してしまった。守ることに意識を奪われ、自分の持ち味を完全に封じ込めてしまったのだ。

これはビジネスの現場でもまったく同じだ。「ミスをしないようにプレゼンする」という目標は、準備に慎重さをもたらすかもしれないが、それだけでは実力は伸びない。代わりに、

・冒頭3分で相手の関心を引きつけるストーリー構成をつくる

といったような具体的かつ行動可能な目標を立てると、自ずと練習内容や資料設計が変わってくる。