夢の「ノーリスク起業」要点は差別化戦略

社内だけでなく、「いずれは独立」を考えて資格を目指す人もいるだろう。この不況期に独立はハイリスクだが、それでも資格での独立には初期投資が極めて少ないというメリットがある。『資格で起業 ノーリスクで年収3000万円稼ぐ方法』などの著者で、行政書士の丸山学氏も最初は200万円の資本からスタートしたという。

「最初から独立が前提でした。そのためには信頼ある国家資格を軸にしようと。国家資格の効果は絶大です。『行政書士の丸山です』と言えば、飛び込みでも社長さんが会ってくれますから」

地方で開業可能なのも強みの一つ。丸山氏の事務所は埼玉県所沢市にあり、家賃は都心に比べてはるかに安い。開業に必要なものはパソコンと電話ぐらい。飲食店などに比べて初期投資は圧倒的に少なく、しかも仕入れは不要で在庫負担もない。起業が前提ならば、資格ほど安上がりな業種はない。

「それだけにマーケティングを工夫しない人も多い。だから、うまくいかない。資格は素晴らしい看板ですが、それに囚われてはいけません。だから資格で独立ではなく『資格で起業』という書名にしたのです」

丸山氏は独立後、「内容証明郵便」に特化したウェブサイトを作った。当時は情報を隠そうとする同業者が多く、Q&Aを丁寧に載せた丸山氏のサイトはヒット。「軌道に乗るまで3年」と言われるなか、わずか半年で独立を成功させた。その後は「前向きな仕事をしたい」と考え、「起業支援」をテーマとして業容を拡大。さらに現在では新規事業として「家系図作成」に力を入れている。

実は、他人の戸籍請求を行えるのは行政書士だけ。さらに丸山氏は「千年分家系図」という切り口で差別化を図っている。料金は戸籍謄本だけなら約10万円、200年分では約25万円、1000年分は約200万円。丸山氏は「自身の趣味が高じた」と説明するが、古文書を解読しながら家系をたどれる行政書士はそういない。独占的な仕事だろう。

「お金を出して家系図を作ろうという人は100人のうち1人いるかいないか。でも全国を対象とすれば、1000人に1人でも十分なニーズが集まります。ネット時代だからこそ可能な広域ビジネスなんですよ」

行政書士という資格を型通りに考えると、こういう発想は出てこない。まさに資格を「使いこなす」好例といえるだろう。かつて行政書士には運転免許センターの前に陣取っていれば儲かる時代があった。ネット時代では同業者との差別化は大きなテーマだ。特徴に欠ける定型的な業務だけでは、全国の同業者を相手に際限のない価格競争を強いられる。自分にしかできない分野を見つけることが大切なのである。