EV化は日本の自動車産業にとって大きなチャンス
――世界を見渡すとヨーロッパではEVの販売の伸びはスローダウンし、ある意味で踊り場に来ていると思うのですが、どう見ていますか?
【清水】僕が見る限りスローダウンとは思えません。ただ2020年以降、EV販売は行き過ぎの状態でした。そのため事業の足元が危うくなったので、もう1回しっかり事業を見直し、足元を固めているという状況に陥ったのでしょう。
今のお客さんは全員がEVを求めているわけではないので、HEVもつくろうとしていますが、EVの本格的な普及期がいずれやってくるでしょう。
「EV導入にブレーキがかかっているとは思えない」
――トヨタ自動車の豊田章男さんがかつて「意志ある踊り場」と言い、成長を急がず、足場固めをした時期がありましたが、欧州のEVも意志ある踊り場ですね。
【清水】そうです。今も欧州はEV導入に積極的です。少し前にスイスのツェルマットに行きました。マッターホルンの麓の町ですが、温暖化で氷河がどんどん溶けています。その街の中はEVか馬車しか入れません。町の手前で車を置いて、馬車かEVで迎えに来てもらうわけです。
僕がびっくりしたのは、雪が汚れてないのです。PM(粒子状物質)が出てないからです。だから空気が綺麗なだけじゃなくて、街が静かで綺麗なのです。欧州ではそういった規制はベルリンなどでもやっているので、EV導入にブレーキがかかっているとは思えません。
――そういう意味では着実にEV化が進んでいるとみていいですね。
【清水】最近の動きとしてはトルコなど東ヨーロッパでは2万ユーロ、つまり300万円台のEVが出てきています。ドイツなどでつくった高性能なEVはいらない、道が狭い街並みを走るにはコンパクトな車の方がいい、というニーズを掴んでいるのです。
スズキはそこに目をつけています。そのマーケットに火つけたのは、ルーマニアのルノー系のDacia(ダチア)です。安いコンパクトなEVをつくったのです。
――日本の軽自動車のような存在ですね。東ヨーロッパだと、ドイツのようにアウトバーンをぶっ飛ばせないと車じゃない、というわけでもないのですか。
【清水】ドイツ人のような考え方は少数派でしょう。ヨーロッパの人はドライバビリティ優先だからコンパクトでもEVの加速性能などに魅力を感じているのだと思います。


