飲んだほうがいい薬、飲んではいけない薬はあるのか。東京科学大学病院総合診療科の石田岳史教授は「高血圧、糖尿病のような確実に老化が進む病気は薬を飲むべきだが、患者から頼まれても処方しない薬がある」という。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが聞いた――。(第4回/全4回)

「部長止まり」はボケやすい

【石田】大企業でも中小企業でも、出世レースに負けて役員になれなかった人ってチャレンジしなくなるんですよ。それが老化の元なんです。もう先が見えたから大過なく過ごしていこうという考えがいちばんダメ。

インタビューに答える東京科学大学病院総合診療科の石田岳史教授
撮影=西田香織
インタビューに答える東京科学大学病院総合診療科の石田岳史教授

55歳を過ぎて役員になれなかった人間って、もう先が見えているから、何となく会社に行くわけです。来た仕事をそつなくこなして、大過なく自分の仕事を終える。大過なくって言葉、僕は大っ嫌いなんです。大過なくっていうのは、何もしてないから大過がないわけ。それに、大過なくという気持ちで仕事してもいい結果なんて出ませんよ。一か八かでチャレンジするから闘志が湧いて、結果が出るんです。

ただ、チャレンジしてぜんぶ成功する人なんていません。チャレンジしたら5回のうち、2回か3回は失敗するもの。でも、5回のチャレンジをすることで、経験を得る。良いことも悪いことも経験するから、人間は学ぶ。それは脳を使っている証拠なんです。チャレンジしない人は脳を使っていない。

たとえば、僕が今、一流企業の部長になったとしましょう。だが、役員にはならない部長だと。そうしたら、一流企業の部長といえばエリートだから、定年まで部長でいようと思ってしまうんですよ。大過なく、事故のないように、穏やかにいこうじゃないかと思うに違いない。

長生きの極意は「はい」と「イエス」

――それは確かにそうですね。役員になれないとわかったら、せめて、部長の地位は死守したいと思うでしょう。

ただ、それははっきり言うと、つまらない人生の選択です。もし、40歳で一流企業の部長だったら、どんどんチャレンジするでしょう。そこで立ち止まるわけにはいかないから。だが、55歳プラスアルファだと周りも期待しない。自分も消極的になる。そうすると、人生の目標が定年になってしまう。定年までは大過なくいこうと考えてしまう。これが落とし穴なんです。

正解はね、57歳、58歳でも、役員になれないとわかってもそれでもチャレンジして生きていくんですよ。そうしたら、チャンスも生まれてくる。チャレンジしない人って、周りから見ていてすぐにわかりますよ。チャレンジしていたら、上司が今度はあいつを関係会社の社長にしてやろうと思うわけです。定年を目標にして生きていくなんてつまらないこと考えちゃいけません。

だから、もし、自分は部長止まりだな、あるいは課長止まりだなと思っている人はあきらめずにチャレンジしまくる。何か頼まれたら、絶対にノーと言ってはいけません。できないと思わずに全部やる。イエスから入る。「はい」と「イエス」だけ答えることなんです。そうすればボケずに長生きできます。大過なくは老化の元と思ってください。ただし、過労で倒れては元も子もないので、頑張っているときは「ほどほどに」という言葉も大事にしてくださいね。