創業以来、いくつもの山と谷を乗り越えながらも、ヒット商品は、ロングセラーに成長した。最初は“ビールの代用品”として飲まれた。次は“焼酎の割り材”、3度目が“新しいヘルシードリンク”というコンセプトだ。
ただし、時代のニーズに合わせて味は変化しているし、品質も間違いなく向上している。加藤木は、それを“進化”というが、それが飽きられない嗜好品の条件であることは間違いない。
「不易と流行」という言葉がある。経営にそくせば、絶対に変えてはいけないものが、理念や社訓に代表される“企業の根幹”の部分。反対に、商品コンセプトや販売方法などは、時代に適応させなければならないということだ。
ホッピービバレッジは、これを手探りながらも成し遂げてきた。国分酒類統括部副部長の東野聡は「消費者のニーズが多様化するなかで、石渡さん(現社長)たちは『この飲み方が一番うまい』と、同じ言葉をひたすら繰り返してきました。同社は、いわば専業メーカー。専業メーカーである以上ホッピーを売っていかざるをえず、そこにすべてを集中していくしかない。それが幾度かのブームと、いまの好調さを支えている。ブレないということが、結果的によかったのではないでしょうか……」とも語る。
ホッピーは、味の本質的な部分は頑固に変えない一方で、消費者のニーズには柔軟に対応するべく品質改良を重ねてきた。そして石渡美奈の進めたマーケティング戦略は的確に「流行」を捉えた結果のものだ。「不易と流行」という、言葉にしてしまうと簡単だが、実行し続けるのは難しいことを愚直に行ってきたことが、ホッピーが現在まで愛される商品に育っている、最大の秘密と言えるだろう。
2009年、ホッピービバレッジは大型投資を行っている。従来の施設に隣接する形で新工場の増築が進んでいるのだ。これが完成すると生産能力は現在の2倍、効率面では3倍になると加藤木は話す。
「生産キャパシティは現在の34万本の倍、70万本になります。いまも需要の伸びは止まりませんし、新工場ができれば増産も可能です」
来年3月は石渡秀が会社を創業した明治43年から数えて、100周年に当たる。と同時に石渡美奈が、それを機に新社長に就任する。だからいま、美奈は次の100年を歩むためのビジョンを構築しようとしている。その中心が07年に第一期生が入社した新卒採用の若手社員だ。美奈は、彼らの感性を生かしたいと話す。
「平均年齢は、ぐっと若返りました。楽しいと思える仕事に就けるかどうかで人生は変わります。みんなが生き生きできるビジョンを作り上げたい……」
この佳節をバネに、同社は攻めを加速していくことだろう。とはいえ、ホッピービバレッジも中小企業の域を出ていない。ヒト、モノ、カネ……、これまで経営資源は、どれも大手メーカーに比べて見劣りがしたと、美奈は率直に語る。
「でも、どこにも負けないものがある。ホッピーの持つ商品力です。だから、半世紀を超えて売れ続けたと思うんです」
昨今の不況下、外で使う小遣いも減っている。酒好きがホッピーに向ける期待は小さくない。もちろん、家で飲むのもいい。朝、「ホッピー」と好みの焼酎、グラスを冷蔵庫に入れておき、晩酌を楽しみに帰宅する。そんなささやかな楽しみが、この大衆飲料にはある。(文中敬称略)
※肩書きなどすべて雑誌掲載当時