※本稿は、田内学『お金の不安という幻想 一生働く時代で希望をつかむ8つの視点』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
採用面接で出会った「必ず6を出せる男」
会社員時代、新卒採用の面接で「12です!」と自信満々に答えた学生がいた。
僕がたずねたのは「サイコロを2個振ったとき、一番出やすい目はいくつか」という統計の問題だった。正解は7である。
「12は、両方とも6じゃないと出ないよ。一番難しいよね?」
僕が苦笑しても、彼は動じることなく、さらに胸を張った。
「僕は、ここぞ、という場面では必ず6を出せます!」
根拠のない自信で統計の問題を突破しようとする姿には惹かれたが、数学が求められるトレーディングデスクでの採用は難しかった。
ところが翌年、彼は法人営業部の一員として入社した。
彼の役割は、トレーダーの僕と、金融機関のお客さんをつなぐことだった。数字が苦手な彼は複雑な金融商品の理解に苦労していたが、入社3年目にはメガバンクを担当するようになっていた。
ある重要な取引を控え、彼が「ちょっと自信がなくて」と不安そうな表情を見せた。心配になった僕は、彼とお客さんの電話交渉を隣でフォローすることにした。すると、電話の向こうのお客さんが彼のためにこんな提案をしてくれた。
「大丈夫? 難しければ、僕から直接トレーダーさんに話してもいいよ」
愛され力はどこから来るのか
これには驚いた。メガバンクは仕事に厳しく、通常なら信頼できない営業マンは容赦なく切るのに、彼に対しては違っていたのだ。
そのとき、ハッと気づいた。面接で彼が言っていた「必ず6を出せる」の意味が。
彼は人から愛され、周囲を巻き込みながら成功を収めてきたのだ。僕自身も彼を助けるために、こうして電話を聞いている。
彼のサイコロは全面が「6」だった。
数年後、その彼、銅冶勇人氏は金融業界を離れ、アフリカ支援を目的にするファッションブランド「CLOUDY」を立ち上げた。トークイベントで対談する機会があったので、率直に聞いてみた。
「どうしてそんなに周りから応援されるの?」
彼はいつもの笑顔で教えてくれた。
「目の前の人にどうすれば喜んでもらえるのかを、いつも考えているんです。そうすると、自然に応援してくれる人が増えるんですよ」

