ドングリなどの木の実が豊作な年でもクマが人里に現れるようになったのはなぜなのか。森林ジャーナリストの田中淳夫さんは「木の実などの植物質の餌はカロリーが低く腹持ちが悪い。人間が食べる匂いの強いものや品種改良された農作物を狙うほか、最近では『土中に埋められた肉』を食べていると指摘する者もいる」という――。
ヒグマの親子
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「ドングリのなる木を植える」「木の実を撒く」は効果が薄い

以前、某森林組合が、クマやイノシシが人里に出没するのを防ぐために「山にクリやドングリのなる木を植える」と言い出したことがある。

またクマ愛護を唱える一部の市民団体が、「クマは飢えているから里に出てくる」と主張して、山にドングリを運びばらまくという行動を取った。

どちらも山で木の実を食べて腹一杯になれば、里には現れないと考えたのだろう。

こうした発想には「クマは木の実が好き。山で十分に食べられたら、わざわざ人里に出てこないはず」という思い込みがある。だが、昨今の人里に出没するクマは、農地の作物を荒らし、市街地で生ゴミを漁ることが指摘されている。さらには家畜や人間を襲うケースも起きた。山に餌が十分にあっても人里に出てくるのではないのか。

本当のところクマは何を食べ、何が好きなのか。そこで昨今のクマ騒動を、各種の研究や観察事例を基にクマの食性という視点から考えたい。

クマの餌の9割は植物質

まずクマは、北海道のヒグマ、本州・四国のツキノワグマいずれも雑食性動物だ。植物なら若葉や花、木の実、さらにイモや地下茎などを食べる。動物質の餌としては、アリなどの巣を壊して卵や幼虫を食べるほか、川などで魚を獲る。サケが有名だろう。シカやイノシシなど哺乳類の成獣はなかなか捕まえられないが、幼獣や死骸などは比較的簡単に得られる餌だ。

ただし、餌の約9割が植物質だとされる。森に住むクマにとって、草木はもっとも手軽に得られる餌なのだ。実の成る樹木を発見すると、何度も通うことが知られている。

ただ6月から9月は、草木の若芽は伸びきって硬くなり、木の実はまだ実らせていないためクマにとって植物質の餌が減る。意外と夏は、餌が少なく飢える時期である。