本好き、本屋好きの間でこの夏の話題書となっている『本屋図鑑』。手にした人は、本屋さんを描くイラストに目を惹かれ、描き込まれた書棚を「読む」ようにじっと見る。なぜ写真ではなくイラストにしたのか。島田さんが語る『本屋図鑑』のつくり方。

ぶらっと入って、ぶらっと出れる

東京・杉並のサンブックス浜田山店。(『本屋図鑑』より。画・得地直美)

孤独なときは、本屋さんへ行った。

精神的に不調で、胸の内に抱えているなんとも言えないモヤモヤは友だちのだれにも伝わらなくて、もちろん家族にも言えなくて、さみしくて、つらくて、夜になると、もっとさみしくなって、でも変に怒りっぽくもあって、そんなときは、本屋さんへ行った。

本屋さんには、いつでも、たくさんの本が並んでいた。どんなに小さな店にも、たくさんの本があった。小説、エッセイ、ノンフィクション、コミックス、絵本、旅行書、美術書、実用書、数百種類の雑誌(店によっては千種類以上)……。

ぼくは、いつも、新刊コーナーを見て、それから雑誌を見て、美術書を見て、文庫を見て、コミックスを見て、ちらっと児童書を見て、サッカー関係の単行本を見た。

そして、いまになって、わかるのだった。

あのとき、ぼくが必要としていたのは、本や雑誌というよりも、本屋さんという場所そのものなのであった。本屋さんが友人であった。ぼくは本が好きというよりも、本屋さんが好きなのであった。

世田谷でも。沖縄でも。アフリカでも。

取材させてもらった、ある書店員さんが話していた。

「子どもがぶらっと入って、ぶらっと出れる店って、コンビニと本屋しかないんだよね」

そのとおりだ、と思った。

孤独な少年が、ぶらっと入って、ぶらっと出れる店は、コンビニと、本屋さんしかなかった。

本屋図鑑を一緒につくった空犬さん(編集者であり、『空犬通信』にて書店情報を日々発信するブロガー)とは、いつも、本屋さんの話をしていた。

ぼくはすっかり忘れていたが、空犬さんと最初に会ったときから(2010年の5月)、町の本屋さんの本をつくりたい、そんな話で盛り上がっていたそうだ。

有名店というよりも、本屋さん特集の雑誌や単行本には載ることのない、町の普通の本屋さんの話ばかりしていた。そういう店のたくさんの工夫や、そこで働くひとたちの素晴らしい人柄などを話していると、時間を忘れた。