資本参加は難しい――。誰もがそう思っていた。つねに前向きな山内も、過去の経験が通用しないことには戸惑ったという。

「中国や中近東との商売では、押し引きを前提とした手の込んだ交渉が普通です。一方、フィンランド人は駆け引きを好まず、最初から結論を出してくる」

山内はフィンランド人の気質を「商売のなかで気づいた」という。同僚や後輩たちも愚痴などは聞いたことがないという。だが苦労なしに前進させられたとは考えられない。海外パルプ課課長の浅田仁は、山内を「秘密主義の人」と表現する。

「山内さんは、いかにも汗水たらしていますという人を嫌う一方で、裏でものすごい努力をしているんです。企画書もデータへの着眼が鋭い。綿密な調査を重ねているはずなのに、涼しい顔をしていて、苦しむ姿は人に見せない。そんな美学の持ち主」

欧州危機で頓挫も「もう1回いくぞ」

左から山内務さん、浅田仁さん、山岸健治さん、小林龍興さん。

山内は夜遅くまで会社に残ることはない。「練習」があるからだ。野球はピッチャー、ゴルフのスコアは80前半、フルマラソンは3時間台。最近はトライアスロンにも取り組んでいる。同僚と飲むこともあるが、くだを巻くこともない。浅田は話す。

「夜に仕事の話をするのは嫌いますから、取れる時間は限られる。海外の出張先では早朝に10キロ走るのに付いていって、ようやく相談ができました」

だからといって、独断専行のタイプではないようだ。大型案件では、社内の複数の役員にも根回しを図る必要がある。パルプのことには誰よりも詳しい山内も、M&Aやデューデリジェンスの経験はなかった。山内は社内の経験者を頼った。

「稟議を通すうえで、カンパニー内にいる経験者の協力は不可欠です。彼らから学びながら進めていきました」

どんな仕事でも、すべてを1人で成し遂げることはできない。95年入社で、M&Aに詳しい山岸健治は、経理、法務など他部署の人間に接する山内の姿を見て、こんな印象を抱いた。

「周囲への説明がスマートでしたね。重要な骨子をわかりやすく、非常に手短に、しかも少し面白く伝える力が抜きん出ていると強く感じました」