6月、川崎重工業が三井造船との統合交渉を白紙撤回すると発表した。同社にとって、正しい決断であったといえよう。

川崎重工の主な事業分野は、船舶関連のほか、鉄道車両や航空機、二輪車、プラントの製造など多岐にわたる。全社の売上高に占める船舶関連の割合は1割以下にすぎない。一方、三井造船は売上高の70%以上が船舶関連。同社は2013年3月期、11年ぶりに最終赤字を計上したが、要因はこの船舶関連の不振にある。

両社に共通する事業は船舶関連のみ。だが、日本の造船業を取り巻く環境は厳しく、仮に実現していたとしても、統合によるシナジー効果はほとんどなかったと考えられる。

かつては日本のお家芸といわれた造船業。なぜ、不振に陥ったのか。

最大の理由は需給バランスの悪化だ。現在、 世界の造船会社が持つ生産能力は、積載量ベースで年間約1億トン。対して新造船の需要は約5000万トン。中国の成長が軌道に乗り始めた02年ころから新造船の需要が増え、韓国、中国の造船会社が次々に参入。だが、08年を境に需要の減少が続く。造船所の規模が大きく、生産効率が高い韓国企業、コスト競争力と旺盛な内需に支えられている中国企業に対し、日本企業は高い技術力を有するものの、価格競争で劣性に立たされている。

昨年までの円高もマイナスに響いた。円安基調に入り、最悪期に比べれば状況が好転する可能性はあるが、依然、需給バランスが改善する見込みは薄い。

では、日本企業に活路はあるのか。結論からいえば、売り上げを伸ばすことは難しい。赤字を止めるための守りの戦略が求められる。方法は3つある。

1つは、海外への展開。川崎重工はすでに中国やブラジルの現地企業と提携し、海外での建造を始めている。

2つ目は、造る船の種類を減らすこと。この戦略を採るのが三菱重工だ。同社は、貨物船やタンカーの製造をやめ、客船とLNG船、潜水艦に絞った。

3つ目が、企業連合である。今年1月、ユニバーサル造船とIHIマリンユナイテッドが統合した。造船所が離れていると、スケールメリットを活かすことは難しいが、今後の展開に注目したい。

(構成=プレジデント編集部)