戦後すぐに「女性重役」を描いたやなせたかし
日本橋三越本店の1階中央ホールで、「やなせたかしと三越」展が開かれていた。三越伊勢丹ホールディングスが所蔵するやなせさんの描いたポスターや社内報、イラストが初公開されていると知り、最終日前日の9月1日に足を運んだ。
朝ドラ「あんぱん」は、やなせさんがモデルの柳井嵩(北村匠海)と妻・暢さんがモデルののぶ(今田美桜)の物語。20週でいずみたくさんがモデルのいせたくや(大森元貴)が、「柳井さんが描いた三星劇場の舞台のポスターを見たことがある」と言っていた。会場には、やなせさんの描いた三越劇場のポスター3点が並んでいた。明るく楽しく、少しも古びていなかった。
その後ろにあったのが、三越社内報「金字塔」にやなせさんが描いた連載漫画「みつ子さん」だった。パッチリした目のみつ子さんは、のぶというか今田美桜さんというか、とにかく似ていて驚いた。が、もっと驚いたのが、初回の内容だった。
掲載されたのは1948年9月の4号。1コマ目でみつ子さんが「今月号から活躍します どうぞよろしく」と挨拶する。2コマ目で「あたし今日から三越の株主よ」と株券を手にしている。そして3コマ目、みつ子さんは「女でも重役になれないはずはないわ」と胸を張る。4コマ目で頭を下げる同僚らしき女性にみつ子さんが、「あら今からオジギしなくってもいいのよ」と慌てている。って、この漫画、すごくないですか?
職場の女性を“同僚”と見るか否か
繰り返すが、掲載は1948年だ。占領下、やなせさんはオール三越従業員に、「女性重役」の誕生を宣言している。すごすぎる&これぞやなせさんだと、頬が緩んだ。というわけでここからは、働く女性から見たやなせたかし論を書こうと思う。
昭和から平成にかけて長く会社員をしてきた私が自信を持って言うのだが、職場における男性には「やなせさん」か「非やなせさん」の2種類しかいない。
「やなせさん」は女性を「同僚」として見る。頭で「同僚だよね」と確認するのでなく、普通に同僚と認識する。つまりやなせさんにとって「女性重役」は突飛なことではなく、そういう日がくると思ったから描いたのだろう。
「非やなせさん」はそうはいかない。表面的には「女性を認めてます」という顔をしていても、腑に落ちていない。「女性=下」が彼らの「普通」だから、「非やなせさん」はいつまでたっても「非やなせさん」だ。ジェンダー平等という世の流れを知り、研修などを受けても、「えっへんな僕」が心から消えない。
みつ子さんを見て、「アンパンマン」の人気の秘密がわかった気がした。子どももおらず、働いてばかりだったので「アンパンマン」をほとんど知らなかったのだが、「みつ子さん」が教えてくれた。


