「おんな」も「子ども」もない

やなせさんは、「子ども」を下に見ていない。「おんな子ども」という表現があるように、女性も子どもも世間からは低く見られる存在だ。でもやなせさんにとっては、どちらも低くない。一緒に働く相手に男性も女性もないし、読者に大人も子どももない。えっへんと描いたものでないから、「アンパンマン」は子どもの心にすっと入っていく。

そしてもう1人、「おんな子ども」を下に見ない「やなせさん」が、やなせさんの近くにいた。サンリオ創業者で現名誉会長の辻信太郎さんだ。辻さんは戦後、「山梨シルクセンター」という会社を起こし、グリーティングカードを売る仕事を始め、旺盛な事業欲と才覚で日本にキャラクタービジネスを広めた立志伝中の人物だ。

「あんぱん」で辻さんは、八木信之助(妻夫木聡)という嵩の人生に大きな影響を与える人物として描かれている。それに合わせ辻さんの人生もいろいろと紹介され、語り部役を担っている1人がノンフィクション作家の梯久美子さんだ。