要素を減らし、キレよく

A氏は、田舎の祖母が女手一つで広大な農地を切り盛りし、ひとりでやっていくために、いかに効率をあげるかを考え、農具の持ち方ひとつを研究する姿が記憶に残っている。自身も常に「いかに仕事を動かすか」を考えるようになったそうだ。また、そんな田舎にいても「勉強したい。海外に出たい」という自分を、両親が一生懸命に働いて応援してくれたことが、心が折れそうなときの励みになっている……といった、具体的なエピソードが光る。

一方のB氏は、「私も同様で、家族との時間がとても仕事の励みになっています。家族がいてくれることで、明日への活力が湧いてきます。仕事そのものは大切ですが、仕事への発想のためにも家族とのゆとりの時間は大切にすべきだと思います」というものだった。

A氏は具体的で、田舎の情景も浮かぶように感情に訴えかける内容であり、B氏は一般論に終始している。「なるほど」と驚きのある具体的な話のほうが、「そうだよね」という一般論よりも刺激になると感じられることだろう。

デール・カーネギーも「要点を具体的に提示する話し手は、一般論に頼る人たちよりも、聴衆を動かすことに成功する」と記すように、具体的な話は、聞き手の情感をかきたてるものである。さらに、こんな面も浮かび上がった。

よく「名言」をとりあげられる人がいるが、なぜか名言を言う人は決まってくる。「的を射た、いいことを言っている」わけだが、多くは話し方がより端的であり、記憶に残りやすい……、つまり短いキャッチコピーのような言い方をする人が多いのだ。A氏はこうした表現がうまく、ただの家族の話を「やる気も発想も、日々の小さな出来事から生まれるもの」と締めくくった。雑誌や新聞なら、ここが見出しになるだろう。

話の中に、こうした記憶に残りやすいフレーズを持ち込んだり、おもしろいエピソードや、たとえ話を加えたりするだけで、話の印象がピンポイントで聞き手の脳裏に突き刺さる。聞き手は、この記憶に残りやすいフレーズだけを頭に入れればいいし、この覚えやすいフレーズをきっかけに、話の記憶を引き出しやすくなるだろう。