詩織さんは中学受験をせず、公立の中学に進んだ。そのころに読んだのが、『博士の愛した数式』。事故の後遺症で80分しか記憶が続かない元数学者の「博士」と、家政婦とその息子「ルート」の心のふれあいが描かれる。この本がきっかけで、あることに目覚めたのだそう。
「私に『数学は美しい』ということを教えてくれた本なんです。ストーリーそのものの面白さもありますが、オイラーの公式や友愛数といった、難しい数学の定理や数の持っている法則を、博士が熱心に語ってくれるんです。それまでも勉強は好きでしたが、特に数学の面白さ、学ぶことの楽しさに目覚めました」
中高時代は、読書や勉強だけでなく、部活にも力を入れていたそうだ。
「真面目に勉強はしていました。でも、引退まではブラスバンド部でサックスの練習に明け暮れていたんです。映画『スウィングガールズ』に憧れて(笑)。昔から『みんなで力を合わせて1つのものを作り上げる』ということが好きなんですよ」
高校1年のときに読んだ『一瞬の風になれ』は、詩織さんの部活動にかける情熱に響いた本。陸上部に所属する高校生の主人公が、親友と切磋琢磨(せっさたくま)しながら関東大会を目指す物語だ。
「中学時代のブラスバンド部のころの自分と重ね合わせながら読みました。部員たちが団結して陸上に取り組む姿が爽やかで、『青春』という言葉がぴったりの本です。特に強豪校と戦うクライマックスは、臨場感のある描写に引き込まれました」
最後に紹介してくれたのが、『どのような教育が「よい」教育か』という学術書だ。
「塾講師のアルバイトをしているときに、生徒から『何のために勉強するの?』と聞かれて返答に困ったんです。そんなときにこの本を読みました。『教育とは何か』という根本的な問いと真摯(しんし)に向き合う内容で、『社会に出て失敗したとき、やり直せる力をつけるために勉強が必要なのだ』と確信しました。教養学部から教育学部への進学のきっかけになった1冊です」