いずれにしても、人生は1回しかない。やりたいことがあれば、ぐいっと一歩を踏み出すべきではないだろうか。一流大学を出て一流会社に入り、若いうちは我慢しながら同じ会社でちまちまと勤め上げ、やがて役員になり、社長をうかがう。そうすることが最善の道だと多くの人が信じている。だが、それは間違いである。

いろいろな会社を経験すればそれだけ自分の視野が広がるし、発想は豊かになる。社外の一流の人たちに触れることで、次のステップが見えてくることもあるだろう。会社を飛び出すことには単にリスクではなく、実りをもたらすこともあるのだということを知ってもらいたい。

人生には案外、幅があるものだ。私自身の経験でも、新聞社から商社、コンサルティング会社と渡り歩く中で気づかされたのは、思っていた以上に横幅があるということだ。自分で「できない」と思い込んでいたことが、意外とすんなりできてしまったりするものなのだ。

ところが、日本のサラリーマンは概してその手の発想を苦手とする。自分の能力や嗜好の「幅はここまで」と勝手に決め付けてしまい、そこから一歩も出ようとしない。

言葉を換えると、リスク許容度がきわめて低い。サラリーマンを長く続けているとそうなるのだが、リスクを回避するどころか忌避する気持ちが異様に肥大化し、ほんのささいなリスクでさえ避けたがるようになるのである。

ときに運悪くレストランの食中毒事件で亡くなる人がいる。その程度のリスクはどこにでもある。だからといって、外食をやめるのは過剰反応というものだ。

海外でお腹をこわしそうだと予感したとき、私はあらかじめ正露丸を3粒飲んでおく。そのくらいの準備をしたうえで、恐れずに料理を食べるのだ。

大事なのは、そうして一歩を踏み出すことだと思うのである。

ドリームインキュベータ会長 堀 紘一
1945年生まれ。69年東京大学法学部卒業、同年読売新聞社入社。73年三菱商事入社。80年ハーバード大学経営大学院でMBA取得。81年ボストンコンサルティンググループ入社。89年同社社長。2000年ドリームインキュベータを設立し、06年から会長。
(構成=面澤淳市 撮影=市来朋久)
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