実験装置を50円でつくる

砂に残ったヘビとゴミダマの足跡。砂漠のヘビは毒をもつので怖い。(撮影=前野ウルド浩太郎)

以前、モーリタニアの農業にたずさわる研究者と雑談していたときのこと。

「ちぇっ 日本はなんでもあるからいいよな。どーせここには優れた設備はないよ。でも、おれたちも自分の力で研究がしてぇんだよ!」と熱き嘆きを吐き出していた。確かに日本は物に恵まれている。だが、私が日本人だからといって金や物にばかり頼って研究してきたと思われては心外だ。日本人にだって金がない者はいるのだ。

俺だ。

そしてそんな俺は、金や物に頼らず、アイデアで勝負するという方法を学んできたのだ。モーリタニアの友よ、今、その証拠を見せようではないか。

もし自分が制限された環境下でも研究することができれば、きっとそれはモーリタニアだけではなく、物資に恵まれない世界中の研究者たちを勇気づけることができるのではないか。志高く、「いつでも、どこでも、誰にでも」作れて使える行動記録装置を開発するという試練を己に課した。

とりあえず、どんな物資が手に入るかモーリタニアのDIY (Do it yourself: 自分でやりな)、つまりホームセンター的なお店に行ってみることに。土地が変わると売り物も売り方も変わっている。ここでは、雨が降らないことをいいことに中古の段ボールから冷蔵庫まで道で売っていた(店内販売もやってます)。ひと通り散策した結果、自分が置かれている状況を理解できた。DIYショップがないやんけ! ぬぅ、予想以上に物資が制限されていて、これは手厳しい。私ごときに開発できるだろうか。逃げ出したくなったが、小さい頃からモノ作りの楽しさを教えてくれた神様(ゴン太君)が励ましてくれた。「できるかなじゃねーよ! やるんだよ!」そうだ。私はポスドク。立ち止まることを許されぬ身分。困ったときは初心に帰ろう。

ゴミダマと初めてサハラ砂漠で出会い、一夜を共に過ごし、迎えた朝を思い出す。枕元の砂丘は彼らの足跡で覆い尽くされていた(←調査中は野宿ッス)。そう、砂漠では砂に残された足跡を見れば、ヘビやトリなどどんな動物がいつ、どこを歩いていたかわかってしまうのだ。そうだ! 砂の上に残ったゴミダマの足跡をチェックすれば、いつ動いているかわかるはず!

同じ大きさの長方形の使い捨ての深底のお皿(プラスチック製)を、向かい合わせにくっつけてホッチキスで端を留め、天井をくりぬいて上から観察しやすい容器を作り、その中に砂を敷き、そこにゴミダマを一匹解き放つ。ティッシュ箱くらいの大きさだ。足跡はもちろん残るし、容器を軽くシェイクすれば砂上の足跡は消え、簡単にリセットできる。ゴミダマは昼間地面の穴の中に隠れているので、隠れ家として穴に見立てた水道用のパイプも入れる。容器、パイプ、ホッチキスの針、砂、しめて50円と驚きの安さだ。

肝心の自動記録装置だが、これはまったく問題ない。必殺「人間レコーダー」を繰り出し、私が人力で[1]動いている(ゴミダマを直接観察)、[2]動いていた(足跡を観察)、[3]不動(足跡なし)のいずれかを自分の目で観察すれば大がかりな装置など不要である。

実は、現代の昆虫の実験は屋内で行われることが多い(私も日本ではそうだった)。屋内での実験は、気象条件(温度、湿度、日照時間など)を人工的に制御でき、いつも同じ条件で効率良く実験できるというメリットがある。ところが屋内では、強風が吹き荒れ、一日のうちに30度も変化するサハラ砂漠の気象条件を完全に再現するのは難しく、今回のように野外でゴミダマがいつ動いているのかを知りたいときには、現場という名の屋外で観察するのが自然だ。これが私にとって初めての野外での実験になるのだが、さぁ やってみよう!

●次回予告
自ら生み出した50円の足跡追跡装置(+昼夜2時間おきの人力記録)を武器に、屋外での実験を開始したバッタ博士。しかしここはアフリカ。予想もできない攻撃が実験装置を、ゴミダマを、そして博士を襲う。次回第5回《奪われた成果――バッタ博士を襲う黒い影》、乞うご期待(7月27日更新予定)。