ザ・ウィンザーホテル洞爺の前身エイペックス洞爺は、私が運営を任された1997年当時、バブルの後遺症を引きずり、苦戦を強いられていました。
あるときスタッフが、客室から煙が出ているのに気付きました。
「火事か!」と慌ててノックすると、部屋で携帯コンロを囲み、焼き肉をしているではありませんか。
お客様が正面玄関に小型トラックを横付けし、ビールやジュースを運び込むことも日常茶飯事。それをとがめて殴られ、ケガをするドアマンが続出しました。
悩んだ末、私はホテルに高級感を持たせることを思いつきました。工夫のひとつが、長身のドアマンに燕尾服を着せ、山高帽をかぶらせることでした。それが「心理的バリア」となり、トラブルはなくなりました。
徐々に経営が軌道に乗ってきた矢先のことです。融資を受けていた北海道拓殖銀行が突然の破綻。ホテルは閉鎖を余儀なくされました。
5年間の奔走の後、2002年に、再開にこぎつけました。もう冒頭に述べたような悔しい思いは繰り返したくありません。このホテルを、世界で通用する本格リゾートホテルに育てたい。そう奮い立って重視したのは、私どもが提案するライフスタイルに共感するお客様に来ていただくための、それも何度も来ていただくためのマーケティングです。
食文化や北海道の大自然を体感できる上質なリゾートでの過ごし方を提案してきました。しかし、ホテルの敷居を高くしすぎてもいけません。そこで、子どもが国際性を学べる場所としてホテルの持つ「社会性」を活用していただくなど、家族で楽しめる工夫もしてきました。
リピーターのお客様へ案内状をお送りするときも、高級ホテルだからといって重みのある文章にはしません。できるだけ親しみやすく、平易な文章で表現するようにします。それにより、一層ホテルに親しみを感じてもらえるようになるのです。
アメリカのベストセラー作家、シドニィ・シェルダンの本は、わかりやすい言葉で書かれていますが、子どもだけでなく、大統領も読んでいます。文面の親しみやすさと、内容の格調高さはけっして相反するものではないのです。