世の中に「仕事のできる人」が少ないのはなぜか。その背景には、あらゆるジャンルで進行している「スキルのデフレ化とセンスのインフレ化」がある。共著『「仕事ができる」とはどういうことか?』(宝島社)を出した2人が、この問題について徹底対談した。後編は「スキル評価」について――。(後編/全2回)
一橋大学大学院教授の楠木建さん、コンサルタントの山口周さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
一橋大学大学院教授の楠木建さん、コンサルタントの山口周さん

「Aさん」に対する評価が評価者によって大きく異なる

【山口周(コンサルタント)】前回、楠木さんと議論したスキルとセンスの問題に関連して、不思議に思うことがひとつあるんです。これは5年ほど前に人事の世界で、かなりインパクトのあるニュースとして共有されたことなのですが、デロイトという大きなコンサルティング会社が人事評価の研究を行ったんですね。

【楠木建(一橋大学大学院 教授)】一般的にコンサルティング会社というのは、徹底したスキル評価の世界ですね。

【山口】おっしゃる通り、僕の経験でもプロジェクトが終わるたびに、プレゼンテーションがうまいとか、ロジックが優れているとか、ペーパーが書けるとか、顧客開拓能力が高いとかいった、まさにスキルに関する項目を評価されます。評価対象者がマネジャーであれば、上司であるパートナーや部下から点数をつけられます。

【楠木】業態から考えて、そういう評価方法になるのは仕方のないことかもしれませんね。

【山口】ところが、デロイトが行った研究によれば、この評価の結果がめちゃくちゃバラつくというわけです。

【楠木】ほう。

【山口】僕の体験からしてもこれはアリだと思いましたが、評価のバラつきが非常に大きいと。

【楠木】バラつくというのは、Aさんに対する評価が評価者によって大きく異なるということですね。

【山口】そうなんです。Aさんはプレゼンテーションがうまいかどうかという項目に、5をつけている人もいれば1の人もいる。もちろんバラつきの程度にも差があるわけですが、問題は「平均点がこのレベルに達しているから、そろそろAさんをシニアパートナーに上げるか」という判断を下していいのか、ということなのです。なぜなら、デロイトではこのやり方で昇進を決めた結果、「こいつ、結局パフォームしないじゃないか」という事態がけっこうな頻度で起きていたというのです。

【楠木】なるほどねぇ。