「日本の眼科医療は欧米など世界から20年、遅れている」。こう語るのは、欧米などで研鑽を積み、数多くの治療法を開発、2017年には世界最高の眼科外科医に贈られるクリチンガー・アワードを受賞した深作秀春氏。日本の眼科医療の問題点を語ってもらった。

欧米など世界の認識では「眼科は外科医」

アメリカの眼科には、2種類の眼科専門家がいます。まずは医学部出身で眼科の治療と手術を行う「オフサルモロジスト(眼科外科医、M.D.)」が1万7000人ほどです。他方は専門大学やカレッジに通い資格を取った「オプトメトリスト(検眼医、O.D.)」が5万人ほどいて、通常の眼科診療や点眼やオルソ治療など、手術はできませんが、かなり日本の一般眼科医に近いレベルの治療を行っています。しかし、元来はメガネやコンタクトレンズの作成が主な仕事でした。

深作眼科院長 眼科外科医 深作秀春氏

一方で日本は眼科医という一種類しかなく、この中に眼科外科医と検眼医のような診療医がいます。みなさんが“目医者さん”と呼んでいる医師がオプトメトリストのような診療医です。現実には、日本では眼科外科医はごくわずかしか存在しないのです。もしあなたが「日本の眼科医は世界的に優れている」と思い込んでいるとしたら、間違っています。本来の眼科外科医が極端に少ない国だからです。

アメリカをはじめとする多くの先進国では、「眼科医は外科医である」という認識が定着しています。だって、ほとんどの目の疾患は手術で治すのだから、外科に決まっているではありませんか。ところが、日本で緑内障(注1)の患者に「手術で治しましょう」と言うと、「え!? 緑内障って手術ができるんですか?」と驚かれるほどです。日本では多くの診療眼科医から「いい点眼剤があり、これで眼圧を下げれば心配いりません」などと言われます。適切な手術時期を逃し失明寸前になって当院に来る患者が後を絶ちません。

注1●緑内障:目から入ってきた情報を脳へ伝達する視神経が障害され、見える範囲が狭くなり徐々に失明する疾患。緑内障は、日本人の失明原因の第1位であり、早期発見・早期治療が望まれる。初期は点眼剤で眼圧を下げるが、中期では手遅れにならないうちに緑内障手術を適切な時期に施行することが大切。

緑内障の場合、点眼剤だけで進行が止まることは、ごく少数。多くは進行が緩やかになるだけで止まりません。ですから手遅れになる前に、経験の多い上級の眼科外科医から緑内障の手術を受けることが大切です。しかし、日本では緑内障の手術をいつまでも薬に頼っていることが多い。日本には緑内障の手術を完璧にできる眼科外科医が少ないからです。日本の失明原因の第1位は緑内障です。先進国では失明の原因の上位に緑内障は挙がりません。それは緑内障をきちんと手術できる優秀な眼科外科医が数多くいるからです。