ホルスト・シュルツ氏

観光立国を掲げ、訪日外国人旅行者数2000万人を目指す日本。サービスにおける世界最高水準を知り、そのうえで個人、組織ともに、サービスのクオリティを高めていく必要にせまられています。

14歳でホテルの世界に入り、数々の著名ホテルでの経験を積み重ね、ハイアット・ホテル副社長を経て、創業社長としてザ・リッツ・カールトン・カンパニーを成功へと導いたホルスト・シュルツさんは、現在はカペラ・ホテル・グループの会長兼CEOであり、名実ともに世界最高峰ホテリエ(ホテル経営者)といわれるラグジュアリーサービスのアイコン的存在です。シュルツさんのサービス哲学を通して、世界に通用するサービスを考えていきたいと思います。

シュルツさんのマネジメントするホテルのひとつ、カペラシンガポールに初めて取材で滞在した時のことです。ホテルに着いてタクシーを降りる際、私はトランクに大事な荷物を置き忘れてしまいました。

気がついたのは、チェックインをすませ、部屋に入ってしばらく経ってからでした。ゲストサービスに電話をかけ、荷物を置き忘れたことを伝えると「レシートをお持ちですか?」「タクシーは何色か覚えていますか?」と尋ねられ、そして「私たちが必ずお荷物を見つけて、野崎様のお手元にお戻ししますので、どうぞその間、お部屋でごゆっくりおくつろぎくださいませ」と言われました。電話の向こうから聞こえてくる声はとても温かく、不安な気持ちがスッと消え去っていきました。

それから30分も経たないうちに、「お荷物が見つかりました」とさきほどの女性スタッフから部屋に電話がありました。ほどなくして、 部屋のドアがノックされました。ドアを開けるとポーターが、私の荷物を持って笑顔で立っていたのです。私はレシートを持っておらず、タクシーの色すら覚えていなかったというのに。