アメリカではWVSの同じ質問に対して58%の人々が「とても重要」と答え、主要先進国のなかで最も高い数値を示している。しかし、WDHのランキングでは20位で、やはり北欧諸国の後塵を拝している。同様の回答は幸福度トップクラスのフィンランドで18%、ノルウェーでも10%でしかなく、信仰心と幸福度の高さはあまり関係ないようだ。

幸せの国・ブータンの国王夫妻だが……。(AP/AFLO=写真)

それでは幸福度と密接な関係あるファクターとは何かというと、目崎氏は「個人に対する社会の寛容度だ」と指摘する。人類は誕生してから長い間、食料を確保して生き延びるため、狩猟における役割分担を決めるなど、集団主義の下での生活を余儀なくされてきた。その後、文明の発達とともに畑作や放牧などの技術が確立され、余裕のある生活が実現し、個人主義を受け入れる社会的な余地が生まれる。そこから個々人による幸福の追求も始まってきたのだ。

そうした社会の寛容度を示す尺度として目崎氏が着目するのが、WVSで「自分が自由と感じているか」と尋ねた“主観的な自由度”に関する回答だ。「とても感じる」から「全く感じない」までを10段階で評点化したランキングが図5で、幸福度上位のメキシコ、コロンビア、アルゼンチンの中南米のほか、スウェーデン、ノルウェーの北欧諸国がトップクラスに名前を連ねている。さらに目崎氏がWVSとWDHの幸福度との相関係数を計算したところ、おのおの0.63ポイント、0.70ポイントだった。1ポイントに近いほど相関関係が強く、幸福度の相関関係はかなり高い。

いま世界一幸福な国として知られるのがブータン。同国はGNH(国民総幸福度)という基準で幸福度を測っている。そのなかには、生活水準、健康、教育などの9つのファクターがあるのだが、個人の自由度に関するものは含まれていないという。

「GNHにもとづいた国づくりの意義は否定しない。しかし、ブータンでは社会の安定が個人の自由や権利よりも優先されているように思え、幸福度が本当に高いかどうかは疑問だ」と目崎氏は語る。