はじき出される完璧主義者たち
一方の自己愛型は万能感が強く、より完璧で大きい目標を目指して励んでいくタイプだ。幼少期に過保護と愛情不足のアンバランスな環境で育った人に多く、幼い誇大自己が温存され、何か偉大なことを成し遂げることで自分の価値を示し、認めてもらおうとするのである。新しいことへのチャレンジ精神も豊富なので、リスクは大きいが大成功する要素を持っている。
こうしたタイプは日本の企業文化にはなじまず、組織からはじき出されることが多かった。そのため起業して活躍する人も多い。ユニクロの柳井正社長やジョブズなどはこのタイプといえるだろう。
しかし、このタイプのリーダーについていく側はやはり大変だ。生真面目型の管理職は、仕事がきっちりできているかどうかだけを見るので部下はまだわかりやすいのだが、自己愛型の場合は、こちらが想像の及ばないような水準で物事を考えている。そして自分が世界の基準だと思っているところもあるため、それに沿わないことがあると激しく怒り出す。部下は何が気に入らないのかさえわからず、困惑することもしばしばだ。
このタイプは、生真面目型とは違い、指摘しても反省を期待することはできない。部下としては、どんなに理不尽なお叱りを受けたとしても「さすが、素晴らしいご指摘で」と賞賛する側に回ることが一番安全だ。このタイプは自分を賞賛してくれる人を認めるため、そこからよい信頼関係ができていくことも多い。関係づくりができれば、ある程度の裁量も認めてくれるようになるので、後々働きやすくなるだろう。
今、日本の大企業が閉塞しているのは、生真面目型の完璧主義者がエラくなって、自己愛型の完璧主義者の能力を活かせていないからだ。停滞する組織を活性化しようと思えば、イチかバチかのリスクを取って自己愛型完璧主義者を育てていく懐の深さが必要となる。ただし、前述のように彼らのもとでは多くの社員が犠牲となる。会社の成功と社員の幸福は比例しないのだ。今後はその両立が、企業の課題となるだろう。
1960年、香川県生まれ。京都大学医学部卒。精神科医、作家。山形大学客員教授。『あなたの中の異常心理』(幻冬舎新書)など著書多数。新著に、『母という病』(ポプラ社)。