わたしが心がけているのは、まず誰が見てもすぐわかる文字と表現で書くこと。略字や暗号を使ったら、後になって本人も忘れてしまいます。次に、必ず空き時間をつくっておく。11時から午後1時までは、いざというときのためにいつも空けておくようにしています。それでも、飛び込みの来客などがあって、たいていは埋まってしまいますけれど。3つめは会社の風土に合わせた日程表にすること。うちはオープンな会社ですが、社外秘の多い仕事をしている会社はそれなりに考えたほうがいいでしょう。新製品の開発会議のような秘密にしたいスケジュールは、うちでも書き入れません。公開したとき、対外的にどうか……というところが基準でしょう。ただ、社長はスケジュールが非公開でも、社内にいるか否かを告知したほうが、いろんな意味でコミュニケーションを図りやすいと思います。

わたしは、この色分けをクリアファイルや付せん紙と連動させています。これで時系列に並べておけば、探す時間は相当短縮できます。宗次(徳二特別顧問)も浜島も、「あれはどこ? すぐ出して」と待つ時間をとにかく嫌がるので、すぐ出る、すぐ返答をすることが大事。「ちょっとお待ちください」っていうと、もう大変。自分がすぐわかるように記憶に留めることを心がけています。

色分けされた社長の日程表を、社員で共有

秘書にとって最も大切なのは、上司を理解すること。これがすべてだと思います。その気持ちがなければただの機械です。例えば、浜島のせっかちさを知らずに「ちゃんと確認してからご報告します」を常時やっていたら、浜島はイライラして、そのうち自分で関係部署に直接指示するようになる。そうなっては、秘書の存在意義はありません。

上司の意図はだんだん読めてきます。ですから、1日会話がなくとも仕事が進むこともありますし、逆にこちらからも間髪いれず先読みして聞いていきます。例えば、浜島が外から戻ってきて1時間経った。ちらっと見た感じでは資料も片付いている。ちょっと本に手が伸びたから、クールダウンしたいのかな……と思った瞬間、「コーヒーにしますか?」。逆にガーッと仕事している最中に、浜島から「中村くーん」と呼ばれ、「あっ、コーヒーですか? 」と即答することも。こういうときは、呼ばれる前に出してあげたかった、と思ってしまいます。

この頃は、わたし自身が中小企業の秘書さんたちの講座や研修の講師として呼ばれることが増えました。スケジュール表とは別に個人の手帳を持っていますが、ちょっと自分の秘書が欲しいと思うこともありますね。

(写真※注:色彩によって予定を分類するこのスケジュール表を、企業の秘書を対象とした中村氏の講座で紹介・活用。パソコンを使わず手書きで作成していた約10年前までは、注目してほしい個所には宗次・浜島両氏がおのおの好む緑、ピンクのマーカーを引いていたという。)

壱番屋 中村由美
愛知県生まれ。コンサルタント事務所を経て1989年、壱番屋入社。秘書として創業者の宗次徳二(現特別顧問)、妻の直美前会長(現相談役)、浜島俊哉社長の3代につく。96年、日本秘書協会「ベストセクレタリー」に選出。
(勝見 明=構成 工藤睦子、大沢尚芳、山口典利=撮影)