それからもう1つ辛かったのは、事件が収まり銀行が落ち着き始めると、陰で、銀行が大混乱し信用を失ったのは、「あいつのせいだ、あいつが騒いだからだ」と言われるようになったことです。
そうしたこともあり、どこかの時点で自分自身にけじめをつけなくてはいけないと思いながら、暮らしていたことは事実です。銀行を辞めた原因の根っこには、そんなこともあったのかもしれません。
ただ、そういう困難な辛いときでも、「明日のことまで思い悩むな」(マタイによる福音書・6章34節)という一言が、私を救ってくれました。
この一言は、第2の強制捜査を経験した日本振興銀行の経営破綻でも、私の救いとなりました。
日本振興銀行は、元日銀マンの木村剛被告(現在係争中)が、2004年に中小企業専門の金融機関として開業したものですが、当初の志と違って不良債権が積み上がり、10年9月に破綻してしまいました。私は04年から同行の社外取締役を、木村被告が逮捕されたあとの数カ月間は最後の社長を務めました。
この事件で本当に残念だったのは、同じく同行の社外取締役だった弁護士の先生が自殺されたことです。
言い訳に聞こえるかもしれませんが、日本振興銀行の件は、月に何回か銀行に行くだけで、相手を信じ切っていた私には経営内容が一切わからなかった。木村被告が経営から逃げてしまった後、私の目の前に出てきた事実は、あまりにも重いものでした。
教わるのではなく自分自身で言葉を探す
弁護士の先生も大変に悩んでおられた。私が早朝に起きて原稿を執筆していると、午前3時頃に私の携帯に電話がかかってきて悩みをお話しになる。先生が受話器の向こうで「死にたい、僕はもう死んでしまいたい」とおっしゃる。そのときに私は「いま思い煩うのはやめましょう。明日は明日、思い煩えばいいのですから」と繰り返し言っていました。