日本でのネット解禁の議論では、なぜか“成りすまし”に神経を尖らせる。同法改正に沿ったガイドラインにはホームページやメールが本物と識別できる電子証明書の活用が盛り込まれているが、李氏は「小さなこと」と一蹴。

「韓国では、成りすましによる選挙違反の逮捕者はほぼ皆無。気付けば割り出すのは難しくないし、ある個人が選挙の際だけ違うアカウントで登録しても、似たような政治的発言や特定の候補者への非難といった過去の痕跡がどこかに必ずある。1人や2人なら影響は小さいし、おかしな相手には『違反の可能性がある』と伝えればすむ。そもそもSNSが使えるなら、成りすます必要性は薄い。問題は組織的な成りすましだが、それは対立政党・組織とどこかでつながりがあるものだ」

ネット選挙の“先達”である韓国で問題化しているのは、実は成りすましではなく、ネガティブキャンペーン(ネガキャン)だ。2年前のソウル市長選が典型例で、「エステに1億ウォン(当時約700万円)も使っている」という対立陣営の宣伝がネットで拡散し、その候補は落選。後で捜査当局が「あれは嘘だった」と発表したが、すでに後の祭りだったという。

12年12月の韓国大統領選では、保守系与党セヌリ党の朴槿恵(パククネ)候補が、左派系最大野党・民主統合党の文在寅(ムンジェイン)候補を僅差で抑え当選。双方ともSNS対策室を設けて専門チームを組み、ネガキャンも激しく行われたようだ。

当時の選挙戦を、韓国の有権者はどう感じていたのか。筆者はソウルの弘益大学で日本語講師を務める後藤信之氏の協力を得て、担当クラスの学生17人からアンケートを取った。韓国では19歳から選挙権を持ち、今回投票に行ったのは17人中15人という。