そもそも、なぜ「103万円」なのか

ここで、「103万円の壁とは何か」という基本を押さえておきます。103万円の壁とは所得税の課税最低ラインで、基礎控除(48万円)と給与所得控除(55万円)を合計した金額です。

基礎控除とは、最低限の生活費相当部分には課税しないという趣旨の控除で、所得が高くなるほど減少し、合計所得金額2500万円超で消滅します(図表1)。

給与所得控除とは、給与所得者に認められる経費のようなものです。55万円が最低額で、給与収入が上がるにつれて増えていきますが、収入850万円超は195万円で頭打ちです(図表2)。

したがって、103万円の壁というのは、あくまでも給与収入を得ている人にとっての壁です。フリーランスや個人事業主の場合は、事業収入から実際にかかった経費を差し引き、そこから基礎控除を引いた金額に対して所得税がかかります。

今回の見直しで基礎控除が引き上げられた場合、課税対象となる所得が減りますから、個人事業主にとってもメリットがあります。

学生バイトは絶対に超えてはいけない壁だった

では、働き控えの解消について見ていきます。

103万円の壁の前で働き控えをするのは、夫を主たる稼ぎ手とするパートタイマーの女性と、親に扶養される学生アルバイトです。パートタイマー女性の場合、103万円を超えても手取りへの影響はほとんどありません。しかし、年収103万円以下の妻に対し、夫の勤務先から月2万円程度の配偶者手当が支給されるケースが多く、それが働き控えにつながっていると思われます。

学生アルバイトの場合、年収が103万円を超えると、学生自身の所得税が発生するだけでなく、親の扶養控除が使えなくなって世帯の手取り年収が減ることから、働き控えにつながっています。特に子どもが19歳以上23歳未満の場合、特定扶養親族として、親は所得税63万円、住民税45万円の控除が受けられます。

手取りにほとんど影響がないパートタイマーと違い、アルバイト学生が103万円の壁を超えると親の税負担が激増するため(税率10%で10.8万円増)(※3)、「絶対に超えないように」と親から強く釘を刺されるはずです。103万円を超えても、学生自身は勤労学生控除75万円を使うことで130万円まで非課税となりますが、この控除を使うと扶養から外れ、親の税負担が増えて世帯年収は減ってしまいます。

2025年度税制改正に向けて、学生アルバイトの働き控えに対応するため、特定扶養親族における子どもの年収要件の上限を150万円に引き上げる方向で最終調整に入りました。ただし、後述するように130万円の壁は残ります。

※3 復興特別所得税は考慮せず