「103万円の壁」撤廃で得をするのは…
2025年度税制改正に向けた議論が始まっていますが、国民民主党が、働き控えの要因となっている所得税の課税最低ラインを178万円に引き上げることを主張し、「103万円の壁」が一気に注目を集めることになりました。178万円の根拠は、1995年に所得税のインフレ調整が行われて以降、最低賃金が73%上昇していることです。
しかし、税収が7.6兆円減るとの試算もあり、自治体の首長からは「行政サービスに重大な支障をきたす」など、地方税収への影響を懸念する声が上がっています。また、高額所得者ほど減税の恩恵が大きい反面、住民税非課税世帯へのメリットはありません。そのため、所得格差の拡大に警鐘を鳴らす声や、減税対象を低所得者に絞るべきとの意見もあります(※1)。
また、専門家の多くは、課税最低ラインが生活保障のためであるなら、最低賃金ではなく消費者物価の上昇率10%程度が適切ではないかとか、120万円前後への引き上げが妥当ではないかなどと指摘しています(※2)。
※1 野村総合研究所「国民民主党・経済政策の財源問題①:減税は財政赤字を削減させる?」
※2 大和総研「課税最低限『103万円の壁』引き上げによる家計と財政への影響試算(第2版)」、野村総合研究所「国民民主党・経済政策の財源問題①:減税は財政赤字を削減させる?」、第一生命経済研究所「Q&Aで答える『年収の壁』問題」
2026年に「106万円の壁」も撤廃へ
そして、パート労働者に社会保険料(厚生年金)の負担が発生する「106万円の壁」についても、厚生労働省は2026年10月に撤廃する方向で調整しています。これによって、手取り収入が減る一方、老後の年金額を手厚くすることが可能になります。
手取り減少への対策としては、各企業が保険料の一部を肩代わりする案が出ていますが、今度は企業負担が増えるため、中小企業を中心に反発も出ています。
現在行われている議論を整理した上で、この大きな変化に乗り遅れてはいけない理由をお示ししたいと思います。