クレカ会員限定の販売でも転売ヤーは潜り込める
まごつくSを尻目に、開け放たれた入口から中へと入って行く人たちがいた。彼らの後に続き、売り場の奥へと進んでエレベーターに乗り込む。他の同乗者も行き先は6階だった。
エレベーターを降りると、「プレイステーション5ご購入の最後尾はこちらになります!」と繰り返す店員の声が耳に入った。声がする方へ進むと、店内を縫うように続く行列が目に入った。ざっと数えても60~70人はいる。この頃、年明けからの新型コロナウイルス流行の第6波がようやく小康状態となっていた。都内の桜の名所が3年ぶりのにぎわいを見せているということはネットニュースで知っていたSだったが、実際にこれだけの人だかりを見るのは久しぶりだった。
Sは到着する前まで、はるかに混沌とした光景を想像していた。秋葉原までの電車の中で、「ヨドバシカメラ秋葉原 PS5」とスマホで検索し、約1年前に同店舗で起きた事件について知ったからだ。
2021年1月、同店で行われたPS5のゲリラ販売会場で、購入を求める客が殺到し、乱闘騒ぎにまで発展していた。この騒動後にゴールドポイントカード・プラスによる購入という条件が課せられたのである。
それ以来、同様の混乱は起きていない。そういった意味では、この条件導入は一定の効力を発揮しているようである。ただ、Sのような転売目的の購入者が紛れていることをみると、転売ヤー対策としてはあまり効果がないのかもしれない。
元締めはゲリラ販売の情報を素早くキャッチしている
ともあれSは、エレベーターの同乗者たちに続いて行列の最後尾に加わった。午前9時になると、レジカウンターに店員が配置され、PS5の販売が始まった。
この時期は、同店をはじめ大手家電販売店でのPS5のゲリラ販売は土日や祝日の早朝に行われることが多かった。販売情報は、前夜や当日早朝といったギリギリのタイミングで各店舗がそれぞれ公開しており、いくつかのサイトやTwitterアカウントが、それらをまとめていた。そうした情報を日々チェックする根気強さと、ゲリラ販売を察知するとすぐに店舗に向かう行動力がなければPS5を入手することは不可能だった。
列に並んでいるのは、20~30代の男性が中心だが、初老の男性や若い女性の姿もチラホラと混じっている。
スマホゲームで時間を潰しつつ、列が進むのを待っていたSがレジカウンターにたどり着いたのは、販売開始から40分ほどしてからのことだった。