ヨドバシカメラの会員限定販売でPS5を買うミッション

それから1カ月ほど経った土曜日の早朝に曹宝から突然送られてきたのが、くだんのメッセージだ。

飲食店のバイトのシフトも元には戻っていない。幸いこの日は予定もない。秋葉原までは、自転車と電車を乗り継いで40分ほどで行ける距離だ。

「行けます」

彼はそうLINEで返信した。

急いで寝癖を整えて着替えを済ませ、まさに玄関を出たちょうどその頃、曹宝から新たにLINEメッセージが届いた。

「今日購入していただくのはプレイステーション5の通常版です。価格は5万4978円ですが、ヨドバシのクレジットカードで買えますか?」

2020年11月にソニーが発売したプレイステーション5(PS5)。その人気のほどはもとより、世界的な半導体不足もあって1年半たっても需要に供給が追い付かず入手難が続いていた(なお、2023年1月30日、同社はPS5の供給量増加を発表し、その後、不足は緩和している)。

2022年3月当時は、大手家電量販店での購入は「自社発行のクレジットカードによる支払に限る」という条件が付けられていることがほとんどだった。購入履歴が残り、転売目的の複数購入を防ぐことが目的だ。

「PS5を購入したらヨドバシの地下駐車場に持ってこい」

そこで曹宝は、ヨドバシの「ゴールドポイントカード・プラス」の保有者を集め、彼らの名義でPS5を代理購入させようというのだ。

「買えますか?」というのは、クレジットカードの限度額以内に収まるかどうか、という意味だ。学生であるSに与えられたショッピング限度額は10万円。ふだんこのカードを使っておらず、この月も与信枠がそのまま残っていた。

とはいえ、なかなかの高額商品である。Sはマンションの駐輪場へ向かいながら逡巡した。「購入したはいいが、買い取ってもらえなかったらどうしよう」。しかし、その気になれば返品・返金が可能であると考え、「買えます」と答え、自転車にまたがった。

Sがヨドバシカメラ・マルチメディアAkibaの正面入口にたどり着いたのは8時45分頃のことだった。営業時間前のようで、入口のドアは開いているものの店内は薄暗く、買い物客の姿はない。

秋葉原
写真=iStock.com/Urbanscape
※写真はイメージです

ここまでの道中に受信した、曹宝からのLINEには“ミッション”が書かれていた。

「到着したら6階にあるゲーム売り場行って、列に並んでください」
「購入したら商品とレシートを持ってB3Fの駐車場に来て、この車を探してください」

練馬ナンバーの黒い箱バンの写真も添えられていた。