PS5を受け取って1万円くれたのは生粋の日本人ではない?

Sの頭に一抹の不安がよぎっていた。それはいつかネット記事で見た、転売対策についてだった。希少性の高いトレーディングカードやプラモデルの販売時に、本物のファンにしかわからないような商品にまつわるクイズを出題して、転売ヤーを排除するというものだ。

この時、店員がSに尋ねたのは「通常版かデジタル・エディション(ディスクドライブを持たない廉価版のこと)か」という質問だけで、購入の資格を問うようなクイズが課せられることはなかった。ゴールドポイントカード・プラスで決済を済ませると、すぐに紙袋に入れられたPS5が渡された。

ホッとしたのもつかのま、Sはミッションがこれで終わりではないことを思い出し、エレベーターで地下3階へと向かう。

地下駐車場
写真=iStock.com/Chaiyaporn1144
※写真はイメージです

指定された車はすぐに見つけることができた。その車の近くに、Sの手にあるものと同じ、PS5が入った紙袋を提げた先客が2人立っていたからだ。

近づくと、助手席のドアから男性が降りてきて、先客の2人から紙袋とレシートを受け取った。それに倣い、Sも自身の紙袋とレシートを男性に渡す。男性は車の荷台のうえで、3つの紙袋から箱を取り出し、それぞれ開封して中身を確認した。荷台の奥には、数十箱というPS5がぎっしりと積まれているのが見えた。

中身の確認を終えた男性は、先客とSの3人に、それぞれ封筒を突き出し、「お金、確認してください」と告げた。そのイントネーションは、ネイティブの日本語話者とは違うクセのあるものだった。

封筒の中に入っていたのは、6万4978円。PS5通常版の購入代金に謝礼の1万円を加えた金額だ。当初聞いていた通り、代理購入のアルバイトは1時間以内に終了した。時給にして1万円。飲食店のアルバイトの時給と比べれば、8倍以上の金額であり、Sにとって美味しい話には違いなかった。

「自分でフリマサイトで売ればもっと儲かった」と気づく

こうして一人の転売ヤーが生まれた

しかし、Sは帰りの電車でスマホの画面を見ながらほぞをかんだ。自分が代理購入したPS5が、一体いくらで取引されているのか、フリマサイトで検索したのである。

すると、PS5の通常版(ディスクドライブ搭載版)が10万円を超える金額で取引されているではないか。ディスクドライブを持たない廉価版のPS5デジタル・エディション(当時の定価は税込み4万3978円)も、取引価格は9万円を超えている。先ほど購入した商品を、ヨドバシの地下駐車場にいた男に渡さず、自身でフリマサイトに出品していれば、取引手数料や送料を引いても、利益は3万円ほどにはなったはずだ。