乱暴な行動や嘘をつくなど、振り回される日々
田中さん夫妻(仮名)は、虐待を受けた子どもを里親として受託して2年が経過した。当初、乱暴な行動や嘘をつくことがあり、過食、頻繁に風邪を引くなど、子どもに振り回される日々が続いた。複雑な家族関係の中で被害体験を抱えていたことを、児童相談所の職員から口伝えで聞いていたが、それだけでは子どもの行動を理解できず、何度も児童相談所に相談して子どもの行動の意味や対応の理解に努めた。
児童相談所の児童精神科医の診察も希望し、半年以上経ってようやくその希望は叶ったが、継続的な診療を受けることは困難であった。しかしながら行動の意味や対応方法が徐々にわかるようになり、ときに子どもが見せる笑顔に救われるようになってきた。
黒澤さん夫妻(仮名)は、長期にわたって虐待を受けた高校生を受託した。年齢が高くなってから保護された子どもの養育は困難なことが多い。黒澤さん夫妻の場合も子どもの背景が複雑すぎて周囲に相談することもできず、問題を自分たちだけで抱え込んでしまいがちであった。委託の際、子どもの成育歴に関する詳細な記録情報はなく、口頭でわずかな情報を得たにすぎない。児童相談所の紹介で、虐待の影響について詳しい医師に相談したところ、子どもの抱えている課題について少し理解できた。
養育は知識と技術に裏付けられた営み
養育は知識と技術に裏付けられた営みであり、愛情は行動に関する知識や対応方法を理解することで深くなることもある。当初黒澤さん夫妻は愛情と思いやりがあれば子育てはできる、子どもをかわいく思えるようになると思い込んでいた。しかしなかなかそうはならず、むしろ苦しくなっていった。研修などで知識や技術を得ることで、子どもの行動の意味を知り、対応の仕方を学び、子どもに対し優しく関われるようになったと振り返っている。
また子どもが他者に頼りながら生活する大切さを実感するには、養育者自身が人に頼りながら養育することの必要性を理解することが重要であることに気付いた。自分たちだけで抱え込まず他者に引き続き相談できると思うと、養育の困難さには変わりないが、心に余裕が出てきたと感じている。