昇給ばかりを要求する労働界

自動車工業とともにドイツ経済の両翼を成す化学工業は、先行して業績の不振を経験している。2022年2月に生じたロシアショックに伴うガス価格の高騰で生産コストが急増し、競争力を失ったためだ。ドイツ最大の化学メーカーであるBASFは今年8月に、本社を置く都市ルートウィヒスハーフェンにある3つの施設を閉鎖するなどしている。

ウォルフスブルクのフォルクスワーゲン工場(写真=AndreasPraefcke/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons

このように、ドイツ経済の両翼を成す工業が不振に喘いでいるにもかかわらず、先に述べたIGメタルが賃上げストを行うことが物語るように、労働界のスタンスは強気である。またIGメタルは、現状の企業業績だとその実現のハードルはかなり高いにもかかわらず、賃金を据え置くかたちでの週休三日制の導入にも野心的であることで知られる。

ない袖は振れない経済界は賃上げに対して慎重な姿勢を強めているが、労働界はストという実力行使に打って出る。本来なら、労使間の対立が激化した場合、その調整を務めるべきは政治である。しかしその政治も、労使間の対立の解消に向けて積極的な役割を果たそうとはしていない。そのため、労使間の対立は解消の見込みが立たない状況だ。

ではなぜ、政治は労使間の対立を仲介しようとしないのか。最大の理由は、オラフ・ショルツ首相を擁する与党の中道左派・社会民主党(SPD)にとって、最大のサポーターがIGメタルに代表される労働界であるからだと考えられる。来年9月28日に総選挙を控えているため、SPDは労働界の肩を持たざるを得なくなっているのである。

対して、SPDを連立の第2パートナーとして支える自由民主党(FDP)は、そもそも経済界寄りの政党であるため、SPDと真逆で経済界のフォローに努めている。加えて、第1パートナーである同盟90/緑の党(B90/Grünen)は、党是である環境政策に引き続き邁進している。これでは、政治による労使間の対立の仲介など望めない。

連立政権はすでに内部崩壊

SPDのショルツ首相とFDPのクリスティアン・リントナー財務相、B90/Grünenのロベルト・ハーベック副首相兼経済相の信頼関係は既に崩壊している。ショルツ政権は年内に来年度予算を成立させなければならないが、現状ではその内容を巡っても三党は対立状態にあるため、このままでは暫定予算の執行を余儀なくされる可能性がある。

基本的に、ドイツは来年度も緊縮型の予算の執行を余儀なくされる。これはドイツの憲法が債務の拡大に歯止めをかけているためだが、その運営が厳し過ぎるとして、国際通貨基金(IMF)からも柔軟な運用に向けた見直しが提言されている。しかしそのためには上下両院で3分の2以上の賛成が必要となるため、今のショルツ政権では困難だ。