ヤングケアラーの当事者も深刻なトラウマを抱えがち

冒頭のCさんなどは、近年問題となっている「ヤングケアラー」(本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども)というとらえ方もできます。

家族が機能せず、他人の責任や問題を背負わされたり、ハラスメントにさらされることの影響は想像以上に甚大です。

ヤングケアラーの当事者たちも「自分が失われる」「世界が壊れる」と表現するように、深刻なダメージをもたらします。

このように捉えると、何がトラウマの原因となるのか? についての基準も急速に変化していることがわかります。

そもそもストレスとはいったい何なのか?

ストレスとは「生体の変化」を意味します。外部からの刺激に対して、生物の身体は反応し、抵抗し、恒常性を維持しようとします。もし、ストレスが強すぎたり、長く継続されると恒常性を維持する機能が破綻をきたし、病気になったり、最悪の場合に死に至ることになります。

この記事のタイトルが示すように、動物にはいわゆる人間で言われるようなトラウマはない、と考えられています。例えば、シマウマなどはライオンに襲われると、その瞬間は血圧を上げ、ストレスホルモンを出し、一目散に逃げます。フラッシュバックに襲われることはありません。シマウマなどの動物だけが特別というわけではありません。哺乳類として私たちと同じようなストレス処理のプロセスを働かせています。ただ異なる点は、その場でサッとストレスを処理して、平常な状態に戻ること、あれこれと想像を働かせたりしない、ということです。

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対して、私たち人間は知能が発達した代償として、「また、同じことが起こるのでは?」といった想像を働かせたり、後悔にとらわれてしまいます。将来の不安を想像しただけでもストレスが起こります。人間は高度な精神の営みの代償として、ストレスを慢性化、長期化させてしまうのです。

死に瀕するようなストレスにも驚くほど強い動物も、意図せずストレスが長引くような状況では、調子を崩してしまいます。例えば、ライオンのいる環境で生息するキリンですが、音に敏感で神経質なため飼育が難しく、動物園でもちょっとしたノイズなどストレスが続くと健康を害したりすることがあります。

馬も敏感な生き物で、競走馬などがストレスで思うようなパフォーマンスを発揮できない、ということを耳にします。

実は人間も、災害などの大きなストレスに遭遇しても大半の人はPTSDにならずに自然と回復していくことも知られています。むしろその後の長い避難生活でストレスが持続したり、適切なサポートがない場合にうつ状態などに陥っていくようです。