これまでの「ゴミ屋敷」とは違う異様な光景
ある日、保健相談所の保健師さんから私が勤める病院に連絡がありました。いわゆる「アウトリーチ」の相談です。厚生労働省が推進する「精神障害者アウトリーチ推進事業」とは、精神科の治療が中断もしくは未治療が疑われる方へ専門職員が訪問し、その状態を確かめて適切な介入を施すというものです。地域の病院と保健相談所が連携していることが多く、今回の連絡もその一環でした。
保健師さんによると、内容は次の通りです。
●近隣からゴミに関する苦情が寄せられている
●何らかの精神疾患が考えられる
ゴミ屋敷問題を高頻度に抱える精神疾患は、有病率から考えても「軽度」知的発達症であることは、これまでにも述べてきた通りです。今回もそう思っていたのですが、保健師さんと待ち合わせて現場へ向かうと、これまでのゴミ屋敷に比べると異質な光景が広がっていました。
一軒家を囲むようにして置かれた20台の冷蔵庫
古い一軒家の生垣を囲うように冷蔵庫ばかりが並べられていたのです。ざっと数えると20台近くあります。どこからか無断で回収してきたのか、粗大ゴミ処理券が貼られているものもあります。さらに、一斗缶が冷蔵庫同士の隙間を埋めるように並べられています。ほかにもゴミと思しきものがありますが、よく見ると素材が鉄やアルミのものばかりです。雨水が溜まり、そこからボウフラが発生しているようです。
廃品回収で生計を立てている方で、ときおりゴミ問題が生じることがありますが、これとは雰囲気が違います。飲料の空き缶などの類は見当たらず、どこか整然とした印象なのが不思議です。
同行した保健師さんによると、住人は50代の男性です。親族がいるのかどうかは不明で、おそらく単身で生活しているとのことです。
呼び鈴を鳴らしますが、反応はありません。いや、よく見ると、配線が刃物かなにかで切断されているのがわかります。仕方がなく並べられた冷蔵庫の間を通り抜けて、玄関まで行き、扉をノックします。しかし、なかなか反応がありません。不在なのかと思い出直そうとしたころ、中で人影が動くのが見えました。
「どちら様ですか」