「人と比べなくてもいい」というマインド

あらゆる特徴をもった自分を「大切な存在」として受け容れられることで、子ども自身が「ネガティブな自分」を受け容れやすくなります。「自己受容」という言葉がありますが、この「自己」には、得意なこと、うまくできること、上手であることだけではなく、人よりもうまくできないこと、苦手なこと、下手なことがあるという側面も含まれています。

そういう「ネガティブなところのある自分」も含めて受容することを指して「自己受容」と呼ぶのです。本当に「自信のある人」というのは、「ポジティブな自分」を主張する人のことではなく、こうした「ネガティブな自分」も受け容れている人のことを指します。そして、「ネガティブな自分」も含めた自己受容ができる人に生じるマインドが、「人と比べる必要なんかない」「私は私なんだから」というものです。このマインドに到達するのは、多くの人が20代後半~30代にかけてだろうと思いますが、子どもたちがこれに近づけるような土台・環境を整えていくことが大切になります。

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子どもの「比べてしまう」を否定しない

余談ですが、こうした「人と比べる必要なんかない」というマインドに至った親切な大人が陥りやすい落とし穴があります。上記のように、多くの比較や競争を体験し、明らかになった「できる自分」も「できない自分」も大切な他者に共有・受容され、自分自身でも受け容れることができて、ようやく到達できるのが「人と比べる必要なんかない」というマインドです。このような道程を経るからこそ獲得できるマインドなのです。しかし、このマインドに至った親切な大人たちは、さまざまな「配慮」をしてしまいます。例えば、人と比べる必要がないから「比較や競争の場自体を取り除く」という思考に陥ったり、子どもに対して「他者と自分を比較すること」自体を否定してしまうのです。

中学生くらいの子どもたちには、さまざまな発達の変化が訪れます。この変化の一つに、自分を「他者の視点」で捉えられるようになることが挙げられ、客観的評価が紛れもない「現実」として響くようになってきます。このような子どもたちに対して「人と比べなくていいよ」というのは、一見、優しい言葉のように見えますが、子どもたちは意識・無意識を問わず「比べてしまう」かもしれないのです。「比べてしまう」子どもに対して、「比べなくていいよ」という言葉は、時として「比較によって生じた苦しさを共有できない」という関係を生むリスクさえあります。繰り返しになりますが、大切なのは「比較や競争がどんな結果になろうとも自分は受け容れてもらえる」という実感です。