自治体の権限は強くなったが、現状は変わっていない

業者に対して、飼養管理基準省令の説明や周知を行えていない自治体も12あった。公益社団法人「日本動物福祉協会」の町屋ない・獣医師調査員はこう指摘した。

「19年の動物愛護法改正によって自治体の権限は強くなった。すべての業者が飼養管理基準省令を守っている状態にするためには、それぞれの自治体が、所管する全業者に対して立ち入り検査を行うことは大前提だ。自治体は業者に対し、計画をもって毅然きぜんとした対応をしていく必要があるだろう」

一方で、登録更新時などの例年通りの定期的なものも含めた立ち入りなどにより、飼養管理基準省令に適合していない業者が見つかった自治体は77にのぼった。飼育ケージの最低面積(容積)や従業員1人あたりの上限飼育数など22年6月以降まで経過措置が設けられている基準との乖離かいりが大きい業者も、36自治体で確認された。立ち入り検査をすれば、ほとんどの自治体で、飼養管理基準省令に適合できていない業者が見つかることがわかる。

「問題業者を判断しやすくなっていることは確かだ。ただ、見つけたはいいが、これまでのように指導だけを長期間繰り返し、動物たちを苦しめ続けるようでは、意味がない。自治体が、見つけた問題業者にどう対処していくかが問われる」(町屋氏)

「レッドカード基準」は機能しているのか

飼養管理基準省令の制定にあたり、当時環境相だった小泉進次郎氏が「レッドカードを出しやすい明確な基準にする」と表明していたことは、先に触れた。

写真=EPA/時事通信フォト
首相官邸で記者会見する小泉進次郎新環境相(=2019年9月11日)

その「レッドカード」につなげやすいと考えられている、飼育ケージの最低面積(容積)や雌犬・雌猫の交配年齢を原則6歳までなどとする規制が既存業者にも適用されるようになったのは、22年6月からだった。この時、従業員1人あたりの上限飼育数に関する規制も段階的な施行が始まっている(24年6月完全施行)。

私は22年12月、いわゆる「レッドカード基準」は有効に機能しているのかどうか、改めて動物愛護行政を担うすべての都道府県、政令指定都市、中核市に調査を行った(129自治体、回収率100%、繁殖業者やペットショップに対する監視・指導を担う自治体はそのうち107)。

まず立ち入り検査はどの程度進んだのか。回答を集計すると、23年度までかかる自治体が41にのぼり、立ち入りを終えるめどが立っていない自治体がまだ27もあった。確認事項が多岐にわたり、検査時間が長くなる傾向があることが背景にあるとみられ、たとえば22年度中に終了予定の岐阜県も「1件あたりの監視・指導の時間が30分程度から1時間程度に増大した」。

職員数が限られる中核市を中心に「人員不足のなか業者への立ち入り検査の時間がなかなか確保できない」(福島県いわき市)などの声も寄せられた。