低年金世帯のほうが生活が苦しい
実際、このようなケースに携わるケアマネジャーやヘルパーの大半は、生活保護受給者に関しては、少なくとも介護生活においては「貧困」層とは認識していない。むしろ、低年金層の介護生活と比べると、介護サービスの利用に関しては生活保護受給者のほうが有利であるとの認識だ。
介護格差を分析するうえで、所得などの収入格差との因果関係を避けることはできない。これまで述べたように経済的に余裕があれば介護生活も安心して送れる可能性は高くなる。いっぽう生活保護受給者を除けば、低所得者は厳しい介護生活となるのは明らかである。そのため、高齢者の所得格差を探求することは、そのまま「介護格差」を分析することにも繋がる。
そこで所得格差を測る尺度として用いられるのが「ジニ係数」だ。イタリアの数理統計学者コッラド・ジニが考案したもので、具体的には「ジニ係数」は0から1までの数字で表され、0に値が近いと、当該国(もしくは地域・集団)は所得分配が機能しており「格差」が少ないという評価になる。
逆に1に近づくにつれ、その国(もしくは地域・集団)は所得分配が機能しづらく「格差」が拡大していることになる。図表1はジニ係数を年齢別に示したもので、1つは単純に社会保障等を加味せずに自力で得ることができる所得のみで測る「当初所得」である。
生活保護以下の生活水準で暮らす人も
これにおいては60歳、65歳から急激にジニ係数が1に近くなり世代内格差が拡充していることがわかる。60歳を過ぎると、どうしても正社員での就職機会が減少していき、再雇用や低賃金バイト収入しか見込めなくなる傾向だからだ。
いっぽう「再分配所得」は、税負担調整、社会保障サービスや福祉サービスなどの利用状況を加味しての所得である。年金や生活保護などの受給を加味した再分配所得においては、75歳以上と50歳~59歳とを比べても差がなくなっていく。つまり、社会保障制度によって高齢者間の格差は是正されているといえる。
ただし、再分配所得はあくまでも社会保障サービスを享受できる人を対象としているため、実際にはサービスに繫がらない高齢者も多い。特に、生活保護受給に繫がらず、狭い6畳1間のアパートに独りで暮らしている人は珍しくない。このような生活保護水準以下で暮らしている高齢者は、かなりの低所得者層である。
日本弁護士連合会(日弁連)資料によれば、本来、申請すれば生活保護受給が可能であるにもかかわらず申請せずに困窮状態にある人の割合が8割ではないかとの推計値を示している。同様な数値は2018年5月29日参議院厚労委員会にて厚労省の責任者が、議員の質問に対して答弁している。つまり、生活保護の「捕捉率」といって、本来、生活保護を申請すれば該当するにもかかわらず、実際は2割程度しか受給されていないとなる。