被害届の受理を先送りし、慰安旅行をしていた県警本部長
長崎県西海市で2011年12月、ストーカー被害を訴えていた女性の母と祖母が自宅で男に刺殺された。ストーカー行為の相談を受けていた千葉、三重、長崎の3県警は「危機意識が不足していた」との検証結果をまとめた。千葉県警習志野署員が被害届の受理を先送りして慰安旅行をしていたことも表面化し、県警本部長らが処分された。
2012年11月には神奈川県逗子市の女性(33)が自宅で元交際相手の男に刺殺され、男は自殺した。県警が11年に女性への脅迫容疑で男を逮捕した際、逮捕状に記載された女性の結婚後の姓や住所の一部を男に読み上げていたことが発覚。女性は12年3~4月、男が大量のメールを送ってくると県警に相談していたが、当時のストーカー規制法で連続した電子メールの送信は適用対象外だったため摘発されなかった。事件を機に法の不備が指摘され、初の改正につながった。
2013年10月には東京都三鷹市で、高校3年生の女子生徒が刺殺され、元交際相手の男が殺人未遂容疑で逮捕された(のちに殺人などの容疑に切り替え)。女子生徒は事件当日の午前中に両親と三鷹署を訪れ、男によるストーカー被害を相談していたことから警視庁の対応が問題視され、警察庁は同年12月、全国の警察にストーカー対策を強化するよう指示した。
「被害者の安全を確保する」という発想がなかった
警察庁で刑事局担当の官房審議官などを歴任した小野正博は「桶川のストーカー事件も、刑事訴訟法的には『殺人事件』として立件したが、『なぜ相談に来た被害者の安全を確保できなかったのか』という批判が根強く残った」と警察側の対応の不備を認め、「事案が起きれば複眼的な捜査が必要になる。事件化して公判で立証するだけではなく、被害者の救出や犯罪の抑止、被害の拡大防止も求められる。警察法がそれらを含めて警察捜査だと規定しているからだ。警察官は単なる公務員ではない。現場で一人ひとりが自分で判断しないといけない」としてより被害者サイドに立った捜査を求める。
警察庁長官の露木は背景について「事件捜査は本来、人を処罰するための手続きであり、それによって被害に遭いそうな人の人身被害を防止するという発想がそもそもなかった。桶川事件も名誉毀損が立件に値するかどうかという感覚だったと思う。そうであれば、署で他に傷害事件が発生していれば、当然、事件としてはそっちが重いのでそれを優先してしまう」と説明する。
一方で「捜査することによって対象となっている事件そのものではなく、その先にもしかしたら起きるかもしれない凶悪事件の発生を防止することが求められていると気付かされた。何か事件が起こる前に警察がそれを予防するためにもっと積極的に動いてほしいというのが国民の期待になってきていると思う」とみている。