「お教室を開こうかしら?」
パーティー好きで楽しいことに貪欲ではありますが、バブ子さんの根っこは邪気の無い、まっすぐな女性です。
「結婚したら、彼の完璧な妻になろう」
心に決め、実行します。家はチリひとつなく整え、料理学校に通った自慢の腕で食事を作り、夫より先に眠るなんてあり得ない。彼が在宅中は、フルメーク&おでかけ着(そのままおでかけできる服装)で過ごします。
さらに余力で、自宅でフラワーアレンジメントやテーブルコーディネイトをお友達に教えたりも。
この時点ですでに、バブ子さんには人並み以上のパワーと才覚が備わっていることがわかります。完璧な主婦をこなして、さらにお友達相手とはいえ「お教室」を開くのです。エネルギーが「並み」の主婦には、とうてい無理です。
結婚の2年後長女を出産したバブ子さんは、娘を自分の母校である名門私立女子小学校にお受験で合格させます。しかも、一緒に受験勉強をした娘の友人も全員合格したため、
「バブ子さんにお勉強を見てもらうと必ずS小学校に受かる」
そんな評判が口コミで広がり、彼女に子供の教育アドバイスを求める人が増えてゆきました。
「幼児教育のお教室を開こうかしら?」
バブ子さんに事業欲が湧いた瞬間です。
夫の特異な性格が目立ち始め…
最初は学生時代の友人やママ友数名に声をかけてメンバーになってもらい、やがて求人募集で人を雇い、生徒を募集し、授業料から利益を捻出し……。事業が拡大するにつれ仕事がどんどん楽しくなってきたバブ子さん。しかしそんな彼女とは対照的に、夫ジュンイチの特異な性格が、目立つようになってきたのです。
「それまでも、一度趣味にハマると執着が凄い人だとは知っていたのですが。G-SHOCKのコレクションにハマると、オークションで高価なものを買い集めたり、とか……」
G-SHOCKからロレックスに興味が移ると、高価なロレックスが何本も増えてゆき、やがてそれらのコレクションがバブ子さんお気に入りの食器を押しのけてキャビネットに並べられるようになってゆきました。
時計に飽きると、怪獣のフィギュア。よくわからないボロボロの怪獣もプレミアム付きの高価な品らしく、棚はそれらで埋め尽くされていったのです。
キャビネットのコレクションを満足げに眺め、悦に入る夫。
「私のお気に入りのマイセンのお皿が、ぼろ怪獣に追い出された」
内心忸怩たる思いでしたが、専業主婦は夫に逆らうような声を上げてはいけないとバブ子さんは唇を噛みしめ、
「自分で金を稼がなきゃ。自分の好きなコレクションを自分だけの棚に飾るには、まずはお金を貯めなきゃダメなのよ」
彼女の人生の方向性が定まりつつありました。