日本医療の未来はサッチャー英国? それとも韓国?

マーガレット・サッチャー元英国首相は生前、「金持ちを貧乏にしても、貧乏な人が豊かになるわけではない」という言葉を残した。サッチャー政権は国営企業の大胆な自由化などで英国経済をV字回復させた。

厚労省は長きにわたって「外科医や地方医師が不足している」と問題視しているが、その解決法として、不足分野の医師全体の待遇を高めようという考えはないようだ。むしろ「働き方改革」と称する労働時間規制でサービス残業を“黙認”して労働環境をより悪化させている。結果、腕利きのベテラン外科医を美容医療に流出させている。

2024年8月には「医師偏在是正として2027年から大都市での開業抑制」が提案されているが、これが実現されたら「2026年までに基幹病院を辞めて、駆け込み開業する医師」が大量発生するリスクが高い。

厚労省は2024年6月には「超音波を照射してシワやたるみを取るHIFU(ハイフ)を施術できるのは医師のみ」という通達を出したが、これも美容医療にビジネスチャンスを増やす結果となるだろう。「HIFU」は医師が担当すれば「合併症がない」というわけではない。誰が当てても低い確率だが合併症がある施術なのだ。そのため、施術結果が思わしくない状況に陥った際は、ほとんどの美容クリニックでは返金のみの対応で、患者自身が一般病院を探したり、救急車を呼んでいるのが現状である。ゆえに、施術を医師に限定しても後遺症の発生率は変わらないだろう。

美容大国の韓国では、日本以上に大都市美容クリニックに医師が偏在し、基幹病院や地方病院の医師不足が深刻化しており、政府は大学医学部の入学定員を拡大すると発表した。これを受け競争が激化し、収入が減少することを懸念した基幹病院の医師たちが今冬に3カ月に及ぶ大規模ストライキを起こす騒ぎも起きた。“現金”なのは一部の日本の医師だけでないのだ。

週刊文春』9月12日号が「大手美容外科グループの大量リストラ」を報じるなど、美容医療も安泰ではない。それでも今後も、若手医師の「直美」化は止められないだろう。

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人材維持・確保のため、厚労省は何をしたらいいのか。以下、筆者の私見だが、美容医療への医師流入を阻止するには、2つの作戦がある。

ひとつ目は、医療現場の規制を緩和して「(美容外科などでの)顔面の施術は歯科医師も可」「美容皮膚科の一部は看護師も可」「比較的安全な処置はエステサロン可」などとする方法だ。施術の“供給者”を増やしてコストダウンを誘導することで、美容医師の待遇を一般医師に近づけるのである。人材流出は一定程度食い止められるだろう。

だが、人材維持・確保のためもっと大きな効果が持てるのは真っ当な勤務医の待遇向上である。まず、昭和的な年功序列給与を卒業し、美容外科グループのように労働時間や患者数に応じた報酬を保証する(窓際医師は減給となる)。

そして、病院と医師は個人事業主契約をして働いた分は確実に時間外手当金を出す、また大胆に労働条件の自由化をして「1カ月働けば翌月は完全オフになる地方病院勤務」といった働き方も認めていき、「医師を集めたい職場」の魅力を上げる。

そうすれば現状、不人気な分野にも人材が移動しやすくなるかもしれない。「直美」対策にも功を奏するのではないだろうか。

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