ミレーナ挿入時に麻酔は必要かどうか

子宮頸がん検診や婦人科診察と同様に、痛みへの対策を求める声がよく上がるものに「ミレーナ」があります。ミレーナ(IUS)とは、子宮内に装着することで黄体ホルモンの作用により月経を軽くすることができるものです。月経困難症や過多月経に対して保険適用があり、約5年間も効果が続くため経済的で、ピルのように飲み忘れもありません。ただし、子宮口から挿入するため、個人差は大きいですが、痛みを伴うことがあります。

SNSでは、ミレーナ挿入時の麻酔は「海外では当たり前」「日本は遅れている」と言われていたので調べてみましたが、事実とは異なるようです。IUS、IUD挿入時の局所麻酔の使用率は、イギリス43%、オーストリア31%、チェコ1%、スペイン2%、フィンランド3%、イタリア3%、フランス6%、ポーランド7%、ドイツ10%、スウェーデン11%でした(※1)。全身麻酔は1〜4%と低く、鎮痛剤の方が多く使用されています。まとめると、ミレーナ挿入時の局所麻酔使用は、痛みを軽減するというエビデンスが十分になく、海外での使用率も高くはありません(※2、3、4)

昨年、当院におけるミレーナ挿入例(6年間、1137例)についてまとめたところ、経膣分娩の経験者は約半数(52%)で、帝王切開のみの出産経験者は16%、出産の経験のない人は32%(性交経験がない人は3%)でした。ミレーナの麻酔について、当院では65%が傍頸管ブロックもしくは頸管内ブロックを使用しています。麻酔薬にアレルギーの既往のない方で希望される方のみに行っていますが、経産婦(経膣分娩)では希望されない方が多いです。麻酔をしたほうがラクそうな印象ではありますが、麻酔をしなくてもほとんど痛くないという方も多いです。

※1 ICPE All Access conference abstracts
※2 Blaire D et al., Anticipated pain as a predictor of discomfort with intrauterine device placement ACOG 2018(2), 236.e1-e9, 2018
※3 FSRH Clinical Guideline: Intrauterine contraception (March 2023, Amended July 2023)
※4 カナダ避妊コンセンサス2019, p192: 第7章 子宮内避妊(jogc.com

写真=iStock.com/doomu
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外来診療で使うことのできる麻酔法

このように婦人科診察や検診、ミレーナの挿入は無麻酔で行うことが多いのが通常です。もちろん、患者さんの痛みに対する十分な共感、できる限り苦痛を軽減したいという気持ちがなければ、医療従事者としての態度に問題があり、痛みを軽視していると言われても仕方がないでしょう。けれども、婦人科で麻酔を使わないケースがあること自体が「水準以下」「遅れている」「人権侵害」ではないことを知っていただきたいのです。

その上で、外来診療の際に行うことができる麻酔法も存在しますので、当院で使用しているものをご紹介しましょう。

①浸潤麻酔:膣の入り口に塗るゼリー状の麻酔。膣の入り口は痺れた感じになりますが、骨盤の奥や子宮口付近の痛みは取れません。

②傍頸管ブロック・頸管内ブロック:麻酔薬を子宮の入り口に注射するもので、注射自体による痛みはありますが、子宮の入り口を器具で固定したり、子宮頸管を広げるときに生じる痛みの軽減が期待できます。

③笑気麻酔:気体の麻酔薬を吸入することにより、酔っ払った感じになり、不安や恐怖が軽減されます。ただし痛みが取れるわけではないので、上記の麻酔を併用することが多いです。

以上が当院で行うことのできる麻酔法です。以下は当院では設備や人手の関係で行っていませんが、医療機関によっては行っている麻酔法です。

④静脈麻酔:点滴に麻酔薬を混ぜ、眠った状態にするもの。点滴が必要なので、針の刺入・留置に伴う痛みや血管痛が起こり得ます。

これらの麻酔以外に、鎮痛薬(飲み薬や坐薬など)を検査や処置の前後に使うこともあります。そちらのほうが頻繁に使われているかもしれません。