脂質まで制限すると糖質疲労を起こしやすい
ちなみに、2006年に報告された、5万人規模で行われた脂質制限食の無作為比較試験の結果は、全体としては動脈硬化症の予防効果はありませんでした。その時にはあまり強調されていなかったのですが、その後2017年に明示された二次的解析結果では、実は、研究に登録された時点ですでに心臓病の既往のあった人では明確に再発率が上昇し、死亡率も上昇してしまっていたのです。
さらに、脂質制限食では元来糖尿病だった人(すなわち、糖質疲労の先にある人)で、さらに血糖値を上げてしまったことも報告されています(※1)。糖質疲労の方の疲労感を助長し、病気に進展させることを懸念させます。
2017年以降、脂質制限は、単に無意味なばかりではなく、人によっては危険性すらあるという食事法という立ち位置になっていることをご理解ください。
脂質の質を問題になさる方もいらっしゃるようです。そういう方の多くは、動物性脂肪=飽和脂肪酸が問題だと思っていらっしゃいます。しかし、2013年には動物性脂肪(飽和脂肪酸)を控えることでかえって死亡率を上昇させてしまうという論文がシドニーのグループから発表されました。
※1:Am J Clin Nutr 2011; 94(1): 75-85
「卵は1日1個まで」を守る必要はない
こうした状況を受け、2014年6月、表紙に「Eat Butter(バターを食べろ)」と記された雑誌が発行されました。それは、世界200カ国、2000万人が読むと公表されている英文週刊ニュース誌『TIME』です。20世紀の脂質制限の概念は間違いだったという特集が組まれたのです。2016年にもほとんど同じような内容の論文がミネソタのグループから発表されています。
ちなみに、「日本人は動物性脂質の摂取量が多いほど脳卒中の発症率は低い」という論文が出ています。観察研究のレベルですら、飽和脂肪酸を制限することを是とはできない状況なのです。日本人を対象に飽和脂肪酸を制限するべきだと主張する方は、どんな根拠でそんなことを言うのか、きっちりと科学的根拠を示す必要に迫られています。
先ほど、TIMEという雑誌の名前を出しましたが、このTIMEという雑誌は、1980年代に卵とバターを控えましょうという特集記事を作成しています。この頃は飽和脂肪酸(バター)に加えて、コレステロール(卵)摂取も制限すべきだとされていたのです。卵は1日1個までなどという言葉をお聞きになったことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
しかし、現在の食事摂取基準では、こうした食品中のコレステロール量の上限の設定はなくなっています。食べるコレステロールを控えると、それを補うように肝臓がコレステロールを合成して血中に放出し、食べるコレステロール量が増えると、肝臓がコレステロール合成を休むからです。